ネット上やニュースで「名誉毀損」や「誹謗中傷」などの言葉をよく聞くようになりましたね。
または、実際にその被害を受けたり、自分が加害者になってしまったのではないかと不安な方もいるでしょう。
名誉毀損も誹謗中傷も、いずれも「他人の人格を否定すること」にほかなりません。
しかし、違いは何なのでしょうか。
そこで今回は名誉毀損と誹謗中傷の違いについて解説していきます。
両者の違いをしっかり押さえたうえで法的措置がとれるようになるところがこの記事のゴールです。
それでは早速詳しく解説していきます。
名誉毀損と誹謗中傷の違い
名誉毀損も誹謗中傷も、他人を傷つけるような発言であることに変わりはありません。名誉毀損と誹謗中傷の違いを一言でいえば、法律用語かそうでないかといったところでしょう。
それぞれの単語の意味を理解して違いをより明らかにしていきましょう。
誹謗中傷とは:「根拠のない悪口」
誹謗中傷とは、何の根拠もない悪口や噂などを流して他人を傷つけることです。
「誹謗」が他人を悪くいうことやそしることを意味し、「中傷」が根拠のないことを言い、他人の名誉を傷つけることを指します。
2つの単語の意味を合わせて根拠のないことで他人を悪く言い、他人の名誉を傷つけるといったニュアンスで用います。
誹謗中傷はネット上でも発生し、匿名投稿でうわさやデマ、ガセネタを書き込み、著名人・一般人関係なく、特定の人物の名誉を傷つける事案が多発しています。
「ネットいじめ」や「ネットリンチ」などとも呼ばれていますね。
名誉毀損とは:「名誉を傷つける行為(法律用語)」
名誉毀損とは、他人の名誉を傷つける行為を指します。名誉毀損は刑法などの法律で禁止されている、違法性のある行為です。
名誉毀損は基本的には「法律用語」であり、誹謗中傷と比べれば少し堅い言い方かもしれませんね。
「直接悪口を言いふらす」「噂を広める」など、どのような手口であっても他人の名誉を傷つけるのであれば「名誉毀損」とみなされる場合があります。
そのため、誹謗中傷は名誉毀損とみなされる可能性がある、という関係にあるとも言えます。
逆に名誉毀損であるからといって、誹謗中傷とは限らないということもできますね。
とにかく、人の名誉を傷つける違法性のある行為ということができますね。根拠のない悪口といった意味がある「誹謗中傷」とはニュアンスが異なります。
名誉毀損の例としては、以下のようなものがあります。
- 「○○は犯罪者」
- 「○○は前科持ち」
- 「○○は元風俗勤務」
批判と名誉毀損・誹謗中傷の違い
また、批判と名誉毀損や誹謗中傷の違いを気にされる方もいますが、全くの別物です。
そもそも「批判」は人を傷つけることを目的としておらず、他人を俯瞰的に評価し、評論する行為です。レポートのことですね。
より分かりやすく言えば「ニュースのコメンテーターの意見」「政府広報」「論文」「統計データの考察」などが批判にあたります。
これらは数字や過去の事実に基づき、論題に対して考えを示すものであり、たとえ特定の人物をテーマに挙げたものでも他人を傷つけることを意図したものではありませんよね。
このように批判や名誉毀損・誹謗中法は別物であることがわかります。
ただし、いくら「批判」と銘打っても、内容に嘘やデマ、情報源がはっきりしない情報がふくまれるなどして、結果的に他人の名誉を傷つける場合もあります。
このような場合は例外的に名誉毀損とみなせる場合はあるかもしれません。いずれにせよ、事例によるでしょう。
補足:「名誉」ってなに?
誹謗中傷や名誉毀損でも触れましたが、「名誉」とは何なのでしょうか。名誉自体にも様々なニュアンスがありますが、誹謗中傷や名誉毀損における名誉には主に以下のような意味があります。
社会的に認められている個人(または集団)の人格的価値
誹謗中傷や名誉毀損における「名誉」はこのような意味を持ち「社会的名誉」を意味するとされています。
より具体的にはその人の持つ
- 品性
- 行い
- 名声
- 信用
- 評価・評判
- 人物像
などといった人格的価値とされています。
人は生まれながらに人権を持っていますが、このような名誉を守る「名誉権」も保障されています。
すなわち、誹謗中傷などの攻撃的な発言により、特定の人間の「名誉」が傷つけば、人権侵害(名誉毀損)となるわけですね。
その違法性から様々な法的措置を検討することができます。
みなさんが誹謗中傷を名誉毀損で訴えたい場合、発言によって自身のどのような名誉が損なわれたのか、きちんと説明できるようにしておきましょう。
誹謗中傷を名誉毀損で訴える方法
名誉毀損には違法性があり、誹謗中傷を名誉毀損とみなせた場合、訴えることができることがわかりましたね。
それでは誹謗中傷を名誉毀損としてどのような法的措置が検討できるか考えていきましょう。
「プロバイダ責任制限法に基づく投稿者特定」
まずは「誰が誹謗中傷を書き込んだのか」特定するのが重要となります。
ネット上のサービスはいずれも匿名性のあるサービスとなっており、個人の特定が困難です。
これは警察であっても同様であり、警察に相談する前に弁護士に相談して投稿者の身元を特定し、確固たる証拠をもってから警察に届け出るケースも少なくありません。
ゆえに、まずは「犯人捜し」が重要となります。
そこで犯人特定の足掛かりとなる法律が「プロバイダ責任制限法」です。
この法律ではネット上で権利侵害が発生した場合に、プロバイダ側に問題投稿を書き込んだ犯人の情報を請求することを認めています。
つまり、誹謗中傷で訴える場合、名誉毀損(人権侵害)が発生していることが前提となります。問題投稿が名誉毀損かどうかもう一度確認しておきましょう。
この法律を根拠に、SNSサービスやプロバイダに対して投稿者の足取りを開示させ、最終的に投稿者を特定していきます。
プロバイダ責任制限法に基づく特定の手続きについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
投稿者の特定が完了したら、投稿者に対して必要な法的措置をとっていきましょう。
「不法行為に基づく損害賠償請求」
投稿者が特定できたら損害賠償を請求していきます。
民法709条に基づき、不法行為(権利侵害)が発生した場合、相手方に損害賠償を請求することができます。
名誉毀損は立派な権利侵害なので、ネット上で発生した場合でも、民法に基づき損害賠償請求権が与えられます。
名誉毀損による損害賠償は最近だと「○○裁判所が被告に○○万円の支払いを命じた」とニュースで散見されるのでご存じの方も多いでしょう。
投稿者に対して損害賠償請求をしたい場合も特定の手続きを行う際に弁護士に相談しておくとよいでしょう。
「名誉毀損罪」
名誉毀損罪は「刑法」で定められた犯罪行為です。
この刑法を管轄するのは国の捜査機関となります。すなわち、この刑法に該当するような犯罪を行ったものは刑罰を与えることができるわけですね。
刑法では殺人や強盗など他人に危害を加えることを中心に犯罪と定めており、懲役や罰金などの刑罰を設けていますね。
もっと簡単に言えば、誹謗中傷による名誉毀損は警察に相談すれば犯人を逮捕できるかもしれないということになります。
名誉毀損罪の成立要件は刑法230条で定義されており、様々な人が閲覧できる場所で、特定の個人の名誉を傷つける情報を掲示することで成立します。
例えば、匿名掲示板やSNSアカウント上など不特定多数が閲覧できる場所での誹謗中傷は名誉毀損とみなせます。しかし、DMや個人トークでは名誉毀損は成立しないとされています。
多くは他人の印象を損ねるデマや嘘を投稿されるケースが多いですね。
「○○は低学歴」「○○は枕営業している」「○○は前科持ち」などありもしない情報を掲載することで名誉毀損罪が成立します。
刑罰は「3年以下の懲役または禁錮」または「50万円以下の罰金」となります。
「侮辱罪」
侮辱罪も人の「名誉」を守る法律で、名誉毀損罪と似ていますが、侮辱罪の方が成立しやすいです。
刑法で定められているので、警察に相談することができます。
侮辱罪の成立要件は刑法231条で定義されており、名誉毀損罪のように「事実」を示さずとも成立します。
事実のような情報を含む必要がないので、「死ね」「アホ」などの罵倒レベルでも名誉毀損が成立するケースがあります。
ただし、刑罰に関しては名誉毀損罪よりも軽く、拘留または科料となっています。
ここまで誹謗中傷や名誉毀損と法的措置について考えてきましたが、泣き寝入りせずに投稿者に責任を負わせることができるので、積極的に活動していただきたく思います。
誹謗中傷を名誉毀損で訴えた事例
名誉毀損を訴えた事例も押さえておきたいところでしょう。誹謗中傷を名誉毀損として訴えた事例はたびたび報じられています。直近だと以下の訴訟が有名ですね。
- 2019年7月「ライター女性中傷事件」:2017年頃から始まったあるサイエンスライターの女性に対するSNS上での誹謗中傷に対し、女性が投稿者を相手取った損害賠償請求訴訟で、投稿者に約264万円の支払いを命じた
- 2020年7月「女優虚偽中傷事件」:SNS上に虚偽の内容を投稿、名誉毀損として女優とその母親が、投稿者を相手取り、慰謝料など265万4000円の支払いを求め訴訟した事案で、被告側が刑事告訴の取り下げと315万4000円を支払うという内容で示談
- 2020年8月「ガラケー女事件」:2019年8月に茨城県の常磐自動車道で「あおり運転事件」に付随し、事件と無関係なのにネット上で「容疑者の車に同乗していた女性」とデマを流され名誉を傷つけられたとして、東京都の会社経営女性が愛知県の元市議の男に慰謝料など110万円を求めた訴訟で33万円の支払いを命じた
このようにネット上の誹謗中傷により、被告側への損害賠償請求が成立しています。このように誹謗中傷は訴えることができることがわかりますね。
まとめ
誹謗中傷とは「根拠のない悪口」のことで、名誉毀損とは「名誉を傷つける行為」のことを指します。
そのため、誹謗中傷の結果、特定の人物の名誉が傷つけられ、名誉毀損とみなされるケースがあります。
誹謗中傷は「名誉毀損」として訴えられるケースが多く、実際に損害賠償の請求に成功しているケースもありましたね。
このように誹謗中傷は名誉毀損とみなされうる違法行為となっているのです。
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