ネット上で炎上し、不特定多数の人間から「袋叩き」にされている・・・
SNSが発達して誰でもネット上で思いのまま投稿ができるように、不特定多数の人間に自分の感情をシェアできる時代となりました。自分の考えが誰かに理解してもらえたり、同じ意見を持つ人間を見つけることができたら「自分は正しい」と思えるでしょう。
しかし、近年その負の影響が見え始めています。
不特定多数の人間は特定の人間に対して、誹謗中傷を行う「ネットリンチ」が横行しているのです。対象となった人間は命を絶ってしまうケースも少なくありません。
この記事を読むみなさんの中にも「現にネットリンチを受けている」という方もいるでしょう。
はじめのうちの述べておきますが、ネットリンチはいかなる理由があろうと「違法行為」です。
ネットリンチを行う、不特定多数の人間の「正しい」という正義感が許容されるものではありません。そしてもちろん、みなさんが自分を責める必要もありませんよ。
今回はネットリンチに遭った時の対策と対処方法を解説していきます。ネットリンチに遭って困っている方はこの記事を参考にして立ち向かいましょう。
ネットリンチの定義と事例
ネットリンチに対処・対策をとるためにも現状を正しく理解しておくことが大切です。ここからはネットリンチの基本的な知識についての解説となります。
『ネットリンチ』とは
ネットリンチとは、インターネット上で不特定多数の人間(ユーザー)が特定の人物を攻撃する行為のことを指します。ネットリンチの「定義」は以下の記事をご覧ください。
リンチの内容は大きく分けて「誹謗中傷」と「個人情報の特定と流布」の2種類です。
サイバーディフェンス研究所の名和利男氏は日本原子力学会誌「2020年に向けて検討すべきセキュリティ対策(2018 年 60 巻 10 号 p. 588-589)」の論文で、以下のように述べています。
日本では,このようなネット上の晒しを行うことで,ネットリンチ(インターネット上で行われる陰湿で一方的ないじめを行う私刑行為)に繋がることがある。
このように晒しによるネットリンチの発生の可能性について述べられています。
特に一般人が対象となった場合の「晒し」行為は深刻です。ネット上に拡散された後は検索エンジン上にも情報が残るため、「デジタルタトゥー」化してしまうケースもあります。
「みんなが批判しているから自分も批判する」というネット上での集団心理が発生しているとの意見もあり、ネット上の「匿名性」という書き込みやすさも攻撃的な発言の原因と考えられています。
また、学生間いじめの延長にある「ネットいじめ」や企業や有名人の失態に対する「炎上」が発生した場合にも、ネットユーザー間の制裁的手段としてネットリンチが付随して発生するケースが多く見られます。
ネットリンチは「正義」ではありません。対象の人物の誹謗中傷や個人情報の流布をともなう時点でモラルの伴った行為ではなく、到底許されるものではありません。
いずれの事例でも、ネットユーザーによる誤解や偏見、差別、決めつけなどが多くみられます。直近の事例では例えば、以下のような例があります。
- スマイリーキクチ氏の事例:1999年頃、スマイリーキクチ氏が1989年に起きた「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人の一人というデマがネット上で拡散。その後誹謗中傷が殺到し、2009年に中傷者を摘発するも不起訴、その後も風評被害が続く
- 木村花氏の事例:2020年5月、木村花氏出演の番組放映後に炎上が発生、発言を過剰に非難するような誹謗中傷が殺到。木村花氏は一連の騒動後に自宅で亡くなり、警視庁は自殺とみている
- 岩手県のコロナ感染者特定事例:2020年7月、岩手県で初の新型コロナウイルス感染者が「第一号」としてネットユーザーによって特定され、ネット上では中傷や差別発言が、勤務先には抗議の電話が相次ぐなどネットリンチが発生
- ソルリ氏の事例:2019年、韓国のネットリンチ事例。ソルリ氏は芸能界で知名度が高かったが、一部のユーザーが彼女の言動に目を付け、誹謗中傷が発生。ソルリ氏は同年10月に死亡、自殺とみられている
上記の「コロナ感染者特定」の事例のように、その対象は一般人にも及び、対象となった方の中には自ら命を落としてしまう方も存在します。
国内だけではなく、海外でも発生しており、匿名性ユーザーによる攻撃的な発言を抑止するために「ネット実名制」の導入を求める声もあがっています。
ネットリンチ法整備は「不十分」現行制度では限度も
現状ではネットリンチを直接的に禁止する法律は存在しません。誹謗中傷や個人情報の流布といった行為に対して現行法で対処せざるを得ないというが現実です。その場合、以下のような法律が適用されます。
- 刑法第230条「名誉毀損」
- 刑法第231条「侮辱」
- 刑法第233条・第234条・第234条の2「信用毀損・業務妨害」
- 民法第709条「不法行為責任(名誉権またはプライバシーの権利の侵害による損害賠償請求)」
- プロバイダ責任制限法第3条「送信防止措置」
- プロバイダ責任制限法第4条「発信者情報開示」
誹謗中傷が名誉毀損や侮辱に該当する、という点は現在、SNS上でも話題となっているのでご存じの方も多いでしょう。ネットリンチによって誹謗中傷が殺到した場合、参加者を刑事告訴することも可能です(後述)。
ただし、上記のような法制度ではネットリンチを行った者を適切に裁けるとは限りません。まず、投稿者の「特定」が困難であるためです。
プロバイダ責任制限法に沿って開示請求を進めても、幾重にも複雑な法的な手続きを踏むだけではなく、技術的にも特定が難しいという背景もあり、投稿者の実名や住所など特定に至ることは稀とされています。
また、仮に特定できたとしても1人につき、各種手続きには1年以上かかることも多いです。
このように、現行の法制度では投稿者の特定にすら至ることが困難とされます。ゆえに現在、政府はネットリンチなどネットトラブル発生後の法的措置について、法制度の改正を進める考えを示しています。
2020年8月現在、政府では発信者特定手続きの「簡素化」や「厳罰化」も視野に入れているとのこと。悪意ある投稿を抑止する姿勢を見せています。
また、国内のSNS提供各社で構成する「一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構」は2020年6月に木村花氏の一件を受け、利用規約上などで誹謗中傷投稿を禁止、違反者の対応を徹底する緊急声明を発表しています。
誹謗中傷投稿による被害は年々増加傾向にあるとされ、国や企業など各種関係機関が一丸となり、今後こういったネットリンチ対策の動きが加速していくものと思われます。
ネットリンチへの徹底対策・対処【法的対処】
それではネットリンチにどう対処していくべきか、慎重に考えていきましょう。前章で解説した法律を元に法的な対策・対処を試みます。
その1:「ひとりで悩まない」相談できる窓口へ
ネットリンチはその様相と攻撃性から、明らかに一個人の人権を侵害する権利侵害が発生しています。公的機関は人権侵害が発生した場合に「相談」できる窓口を利用することをおすすめします。
ひとりで悩み苦しむ必要はありません。誰かに悩みを聞いてもらい、1人でも理解者を増やしていただければと思います。
その2:ネットリンチを行った者の特定と損害賠償請求
ネットリンチでは誹謗中傷により、ほとんどのケースで名誉毀損(名誉権侵害)やプライバシー権の侵害など、対象者への人権侵害の発生が認められます。
ネット上でこのような人権侵害が発生した場合に適用されるのが「プロバイダ責任制限法」です。同法第4条に基づき、ネットリンチ参加者に対して「発信者情報開示請求」が可能となります。
ネットリンチの被害者に対して投稿者の個人情報を請求できる権利が与えられます。
具体的にはipアドレス(投稿者端末の識別番号)を特定し、そこから投稿者の契約するプロバイダを特定、プロバイダに投稿を保存させ、投稿者の契約情報(個人情報)を開示する手続きを行います。
投稿者を特定したい場合、詳しくは以下の記事をご覧ください。
特定後は特定に協力した弁護士と共に投稿者に対して示談による慰謝料請求、または民法第709条「不法行為責任(名誉権またはプライバシーの権利の侵害による損害賠償請求)」に基づき、損害賠償請求の訴訟を起こします。
その3:ネットリンチを行った者の刑事告訴(名誉毀損・侮辱など)
ネットリンチによって誹謗中傷やデマが発生している場合、対象者の名誉(社会的信用)が失われたとしてネットリンチ参加者に対し、名誉毀損罪・侮辱罪に問うことが可能です。
各罪の概要と成立の条件は下記の記事をご覧ください。
名誉毀損罪・侮辱罪は刑法で定められている犯罪行為であり「刑事罰」が存在します。投稿者が各罪に該当する場合は警察など捜査機関が動き、投稿者の身柄を拘束するでしょう。
しかし、名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪であり、被害の申告の必要があるのを忘れてはいけません。
また、警察に積極的に動いてもらうためには「被害届」ではなく「告訴状」という書類を提出します。
こちらの書類には「捜査義務」があり、警察が受領すれば捜査を行う必要性が生じます。それだけにあいまいな記述があれば受領を拒否されるケースも少なくありません。
そこで先のプロバイダ責任制限法に基づいて投稿者を特定しておき、事件には一定の重要性があることを示しておきましょう。
また、以下の記事では告訴状受理から投稿者逮捕の流れについても解説していますので、ぜひご参照ください。
その4:ネットリンチ投稿の削除依頼
ネットリンチ投稿は放置すればドンドン情報が拡散されていきます。ネットリンチの新規参加者が現れる原因となるでしょう。そのような投稿に対しては、早めの削除依頼も重要となります。
こちらはプロバイダ責任制限法の第3条に基づき、送信防止措置の依頼が可能です。以下の記事も参考に、投稿に対する法的措置を行いましょう。
【注意】日頃より攻撃的な発言や火に油を注ぐ行為は避ける
ただし、上記の対策をとる上で専門家の意見は2つに別れています。
それは、
- 「SNS投稿の非公開化」:過去の投稿から個人情報や「炎上」の火種となりうる投稿を探させないため
- 「むしろSNSを利用して情報発信」:ネットリンチを受けるような筋合いはなく、投稿内容に間違いがあることを示す
の2つです。
もちろん2つの意見はどちらも正しいのですが、一番は過去の投稿で問題のあるものを「削除」していき、SNSを利用して「(問題とされるような行動があれば謝罪)ネットリンチ発生の事実報告と弁護士と協力し、〇〇という違法公に対して適切な法的措置を行う」ことをSNS上で公表することでしょう。
もちろんこの際にネットユーザーを煽るような行動は禁物です。火に油を注ぐような炎上の火種になりかねません。ただし、状況によって対策は異なりますので専門家と相談しながら最善の行動を心がけましょう。
まとめ:ネットリンチと「戦う」こと
この記事で紹介したようにネットリンチへはきちんと対処・対策をとることができます。スマイリーキクチ氏のように数十年戦い続ける方も存在しています。ゆえに、決して「泣き寝入り」してはいけません。
今回紹介した対策は以下の通り。
- その1:「ひとりで悩まない」相談できる窓口へ
- その2:ネットリンチを行った者の特定と損害賠償請求
- その3:ネットリンチを行った者の刑事告訴(名誉毀損・侮辱など)
- その4:ネットリンチ投稿の削除依頼
- 【注意】日頃より攻撃的な発言や火に油を注ぐ行為は避ける
まずはできることから行動していきましょう。
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