この記事では「個人情報を晒す罪」について解説しています。
ネット上で個人情報を晒されました。法的な問題はないんですか?
ネット上に他人の個人情報を無許可で掲載する行為は違法行為です。今回はどのような罪に当てはまるのか、どのように対処していけばいいのか説明します。
今回のテーマは「個人情報を晒す罪」と「その対処」です。
ネット上への個人情報の流布は「違法行為」にほかなりません。最も考えられやすいのは「プライバシーの侵害」に関係する法的問題の発生です。違法性の高い事案ですので厳格に対処していきましょう。
Twitterの晒し行為に対処したい方は下記の記事も参考にしてみてくださいね。
それでは解説していきます。
個人情報を晒すパターンには何種類かある【事例付】
ネット上で「個人情報を晒す」といっても様々なパターンが考えられます。まずはみなさんがどのパターンに当てはまるのか、またはどのパターンに近いのかを押えておいてください。
氏名・住所・勤務先など「情報」が晒されたパターン
まずは、
- 「匿名掲示板やSNS上に氏名・住所・勤務先・電話番号を書き込まれた」
- 「twitterで実名晒しにあった」
- 「名指しで悪口を書き込まれた」
- 「住所晒しスレに住所が書き込まれた」
などといったパターンです。文面で伝わる文字情報・文章・投稿がメインとなります。
このようなプライバシーに関す情報がネット上に書き込まれた場合は以下のような法的問題が発生している可能性があります。
基本的にはプライバシーの権利を侵害していると思われますが、誹謗中傷的な表現が含まれている場合は「名誉毀損」や「侮辱」に該当する可能性もあります。詳しくは上記のリンクからご確認ください。
例えば、グーグル上で自分の名前を検索すると逮捕歴情報が表示されるので、グーグルに削除を求めた例があります。
逮捕歴が表示され続けるのはプライバシーの侵害だとして、北海道の男性がGoogleに検索結果の削除を求めた裁判で、札幌地裁は12日、原告の主張を認め、一部の削除を命じた。
原告の男性は2012年に強姦の容疑で逮捕されたものの、嫌疑不十分として不起訴処分になっていた。(中略)裁判所は、不起訴処分になって以降も同僚に逮捕について尋ねられるなど、生活上の不利益を被ってきたという男性側の不利益の方が大きいと判断したのだ。
引用ABEMA TIMES「検索結果に表示される逮捕歴、グーグルに削除命令 日本でも「忘れられる権利」の議論は進むか」2019.12.16
この裁判では札幌地裁が原告の主張を認めているため、Googleがプライバシーを侵害しているとみなしています。ネット上に掲載されている文字情報がプライバシーの侵害と認められた例となります。
続いては、ネット上で実名をあげて誹謗中傷した例です。
埼玉県川口市立中学校でいじめを受け不登校になった元男子生徒(16)が、インターネット掲示板で実名を挙げられ中傷されたことを巡り、元生徒の保護者は5月28日、書き込んだ側の2人に計約160万円の損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に起こしたことを、会見で明らかにした。
訴状などによると、被告側は2018年3月、ネット掲示板に学校名入りの話題を設定し、元生徒の実名を挙げて中傷するなどしてプライバシー権を侵害した。
このように原告は実名(個人情報)をともった誹謗中傷がプライバシーの侵害であると訴えています。
ネット掲示板に個人情報と誹謗中傷を公開する行為はプライバシーの侵害だけではなく、「名誉毀損」が発生する可能性が高い行為です。
もう一度現状を整理して、名誉毀損が成立していないか次章で確認してみてくださいね。
顔や容姿を写した「写真」が晒されたパターン
今度は文字ではなく「写真」がSNSや掲示板上に悪意で晒されたパターンです。SNS(特にTwitter)上でのいわゆる「晒し」「顔晒し」などとったケースはこちらに該当します。
写真という性質上、勝手に公開されれば「肖像権侵害」が発生する可能性も十分に考えられます。それぞれ次章をご確認ください。
「性的コンテンツ」が晒されたパターン
いわゆる「リベンジポルノ」という行為です。過去にプライベートで撮影された性的コンテンツ(写真、映像、音声など)を不特定多数に公開する行為が該当します。
このような行為は「リベンジポルノ防止法」と呼ばれる法律で直接規制されており、「刑罰」が与えられます。以下は懲役が与えられた例です。
元交際相手の女性ら2人との性的行為の画像をSNSに投稿したなどとして、リベンジポルノ防止法違反罪などに問われた被告の無職男(33)の判決が16日、名古屋地裁であった。岩田澄江裁判官は「被害女性の私生活の平穏を害し、大きな精神的苦痛を与えている」などとして懲役3年執行猶予5年(求刑懲役3年6カ月)を言い渡した。
このように性的コンテンツのネット上への投稿はリベンジポルノ防止法違反罪ですので、お悩みの場合は次章の「リベンジポルノ防止法」をご覧ください。
LINEやTwitterの「スクリーンショット」が晒されたパターン
SNSの「スクリーンショット」の公開は一概にプライバシーの権利とみなすことはできません。スクリーンショットに収められた「内容」と添付されている文の「文脈」によります。
例えば、スクリーンショットで収められた画像の中にプライバシー情報が含まれた文章や画像がある場合、プライバシーの侵害とみなすことはできます。
ただし、必ずしもそのようなプライベート情報が収められているとは限りません。そのような場合はスクリーンショットに添付されている文章(画像の説明文)にご注目ください。
スクリーンショットで相手のツイートやDMを撮影した上でアップロードし、説明文で相手を誹謗中傷する内容もあわせて添付した場合、「名誉毀損」に該当する可能性があります。
このように、「スクリーンショットの内容」や「添付された説明文の内容」によると考えられます。
番外編:「個人情報」ってなに?
なんとなく分かったつもりになっている「個人情報」の定義を明らかにしておきましょう。
内閣府の個人情報保護委員会では、個人情報を「個人に関する情報」として、以下のように定義しています。
「個人に関する情報」とは、氏名、住所、性別、生年月日、顔画像等個人を識別する情報に限られず、個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての情報であり、評価情報、公刊物等によって公にされている情報や、映像、音声による情報も含まれ、暗号化等によって秘匿化されているかどうかを問わない。
引用個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) 」p.5 2016年11月発行2017年3月改定※赤太字加工
このように、様々な情報が個人情報として定義されています。晒された個人情報が以下のような項目に当てはまるか確認しておきましょう。
- 氏名
- 住所
- 性別
- 生年月日
- 顔画像
- 個人の身体・財産・職種・肩書などの属性に関する事実、判断、評価
- 映像
- 音声
ほとんどが氏名や住所、顔画像が当てはまると思います。
その他の項目でも個人に関する情報であれば「個人の身体・財産・職種・肩書などの属性に関する事実、判断、評価」をほぼ満たしており、「個人情報」として保護されるべき情報であることが分かりました。
「個人情報を晒す罪」について、法的問題点
「個人情報を晒す」という行為の違法性は「権利侵害」にあります。権利侵害とは、文字通り法律で守られている権利を不正に侵害する行為のことを指し、「人権侵害」なども権利侵害に含まれます。
個人情報を晒す行為は数ある人権のうち、
- プライバシーの権利:他人に知られたくないプライバシー情報を無断で取得・保有・公開などされない権利
- 名誉権:人の「名誉(社会的の評価・印象など)」に関する権利
- 肖像権:「容姿」を無断で撮影・公表されない権利でプライバシーの権利の一つ
などを侵害する行為と考えられます。個人情報を晒すことで発生する問題に対しては、基本的には刑事ではなく、民事上の責任を追求する形となります。
これに対する「民事」は刑法や憲法などを除いた「私法」に基づく人々の間の生活関係に関する問題のことです。警察は動きません。
犯人に罰則を与えることができるのが「刑事」ですね。
個人情報を晒す行為に対しては、民法709条の「不法行為」の条文に基づき、損害賠償(慰謝料)を請求します。
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
このように基本的には民事責任を追及することになります。詳しくは下記の記事をご参照ください。
ただし、「懲役」「罰金」など警察や検察を動かして刑事上の責任を追及することも可能です。
例えば、個人情報を晒す行為は以下のような「罪」が発生しているとも考えられます。
- 刑法230条・名誉毀損罪
- 刑法231条・侮辱罪
- リベンジポルノ被害防止法違反
プライバシーの侵害のような民事上の問題だけではなく、上記のような刑事上の問題が発生している場合は民事と同時に責任を追求することも可能です。
まずはみなさんの問題とするコンテンツがどのような法的問題を含んでいるのか照合していきましょう。
「プライバシーの侵害(プライバシー権侵害)」
プライバシーの侵害(プライバシーの権利の侵害)は、プライバシーに関する情報を無断で公開されることで発生します。民法の「不法行為」に該当し、基本的には民事上の責任しか追及できません。
プライバシーの侵害に対して刑罰を与える刑法は今のところ存在しません。
どのような個人情報でもプライバシーの侵害とみなせるわけではなく、以下のような判断基準が存在します。
- 私生活情報、または私生活情報と勘違いされるような(誤解を与える)情報
- 公開された結果、不快・不安となった
- 未公開の情報が公開された
このような個人情報がプライバシーの侵害に該当し、民法に基づく損害賠償請求が可能になります。
該当する場合はひとまず、「プライバシーの侵害」に該当する可能性があるとして他の法的問題が発生していないかチェックしていきましょう。
刑法230条「名誉毀損罪」または「名誉権侵害」
プライバシーの侵害に加えて、誹謗中傷的な文章や表現が併記されるケースも少なくありません。特定の人物への誹謗中傷は「名誉毀損」や「侮辱」に該当する可能性があります。
「名誉毀損」とはネット上など不特定多数がアクセスできる場所で何らかの情報を提示し、特定の「個人」の人格を否定、社会的な評価(名誉権)を傷つける場合に成立する人権侵害です。
この人権侵害はプライバシーの侵害と異なり、民事上だけではなく刑事上の責任があり、犯人に懲役や罰金を与えることも可能です。
「親告罪」:警察に被害の申告が必要
それが以下の刑法第230条「名誉毀損罪」となります。
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
成立の条件は以下の3つに分けて考えます。
- 「公然と」:誰でもアクセスできる場所で= ネット上(SNSやサイト、匿名掲示板上)で
- 「事実を摘示(てきし)し」:何らかの情報を示して= 何らかの発言、テキストなどで
- 「人の名誉を毀損した者」: 特定の「個人」の社会的評価(名誉)を傷つけた者
例えば、ネット上や街頭など公共の空間で
- 「〇〇は〇〇町〇丁目に住んでいる感染者だ」
- 「〇〇は低学歴だ」
などと特定の人物に対するデマを流し、特定の個人の名誉を傷つければ名誉毀損に該当します。もちろん名誉権侵害として民事上の責任を追及し、損害賠償を請求することも可能です。
刑法231条「侮辱罪」または「名誉権侵害」
罵倒でも成立する「侮辱罪」もあります。
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
このように侮辱の場合は「何らかの情報」を伴う必要はありません。ネット上でスクリーンショットや本人の顔写真に対して「馬鹿」「ブス」などと罵倒するような表現の内容を添付すれば、特定の個人を辱めるものとして「侮辱」とみなされます。
(刑事罰としては比較的軽微)
「親告罪」:警察に被害の申告が必要
「肖像権侵害」
繰り返しとなりますが「肖像権」とは、他人から無断で自分の容姿の写真を撮られたり、無断で利用されたりしないように肖像の利用を主張できる権利です。
勝手に顔写真や容姿を写した写真をネット上に公開されれば肖像権侵害となります。不法行為に基づく、損害賠償請求を行いましょう。
「リベンジポルノ被害防止法」違反
「リベンジポルノ」とは、元交際相手が仕返しとして、相手の性的な画像や映像、音声をネット上に公開する行為のことを指します。こちらは2014年から特別刑法が設けられ、禁止されています。
この法律は、私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって名誉又は私生活の平穏の侵害があった場合(中略)個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的とする。
つまり、リベンジポルノ画像を拡散(流通)したことで名誉を毀損されたり、プライバシーを侵害される事態を防ぎ、拡散(流通)を防止する法律のことです。
また、以下をご覧ください。
第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
このように、リベンジポルノ画像を不特定多数に公開した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
また、この犯罪は「親告罪」となりますので、警察への申告が必要です。もしリベンジポルノ画像を勝手に公開され、デジタルタトゥーに悩む場合は警察に相談しましょう。
デジタルタトゥーに悩む方は以下の記事もご参照ください。
個人情報晒し行為への対処方法
対処方法は「削除」または「相談」です。これから解説する内容をふまえ、情報が拡散されてしまう前に対処していきましょう。
直接本人に「削除」を交渉
この手の投稿は組織ではなく個人を対象とするという性質上、計画性はなく「出来心で投稿した」と推察できます。
そのため、この記事で述べてきたように「違法性が高い行為である」ということを伝えれば、投稿した本人が直接削除に至るという可能性は考えられます。
前章でどの法律に当てはまるか確認しておき、「〇〇という法律に違反している可能性があるので直ちに削除をして欲しい」と交渉し、直接削除を依頼しましょう。
問題の情報の「削除依頼」
直接削除できない場合はサービスの運営会社に対して「削除依頼」を行う形となります。
各種サービスでは「削除依頼フォーム」「報告機能」「通報」などの形で、投稿の問題報告や削除依頼を受け付けています。
各サービスにおいて削除依頼方法方法が異なりますので、以下の記事を参考に削除を依頼していただければと思います。
また、名誉権侵害、プライバシーの侵害、肖像権侵害など権利侵害が発生している場合、プロバイダ責任制限法に基づき「送信防止措置」が可能です。
この送信防止措置とは、ネット上の情報の法的な削除依頼が可能となる手続きであり、権利侵害が発生していることを条件にサービスの運営会社に特殊な書面を送付することで削除が可能となります。
詳しい内容や書き方は下記の記事で紹介してきます。
関係対策機関への「相談」と「特定」について
削除だけではなく、何か法的な措置を求める場合は下記の3つに相談してみましょう。
- 各都道府県警察本部の「サイバー犯罪相談窓口」:ネット上の問題で困ったら警察の専門窓口に相談
- 各都道府県の「人権擁護委員連合会」:法務大臣が委嘱した民間の人権擁護機関
- 「弁護士」:損害賠償・慰謝料請求の際は弁護士に依頼
- 「警察」:刑事責任を追及する場合は「被害届」または「告訴状」を提出
弁護士に依頼する場合は以下の記事もご参照ください。
問題の投稿者に対して損害賠償を請求するためには、投稿者の個人情報が必要です。そのため、投稿者の「特定」という手続きも必要となります。弁護士と相談する際に「特定」も依頼しましょう。
特定についても「プロバイダ責任制限法」に基づいた正式な手続きです。
また、親告罪の場合は「被害届」を提出しますが、「被害届」には捜査義務はないため、提出しても必ずしも警察が動いてくれるわけではありません。
そこで捜査義務が発生する「告訴状」の提出を目指します。この告訴状は受理を拒否されるケースも多いので、事前に十分に違法性があることを証明するためにも犯人を特定しておくと良いでしょう。
まとめ:今後、個人情報を晒されにくくする対策を
今回は「削除」「相談」など上記で紹介した方法で対処できたとしても、次回起こらないとは限りません。そこで以下の点には十分に注意しましょう。
- ネット上に文章、動画、画像など何らかのコンテンツを投稿する際は「個人情報」が含まれてないかチェックしてから投稿する(他人からの個人情報特定を防ぐ)
- 投稿の「非公開化」「鍵アカウント化」を行い、そもそも情報を公開する範囲を限定する
- エゴサーチを行い、個人情報の流出がないか見張る
上記の再発防止策を講じて、晒されるような「個人情報」の流出を避けましょう。
また、個人情報はネット上に残りやすく、最悪の場合「デジタルタトゥー」となってしまう可能性があります。以下の記事を参考にその実態の把握と対処方法について考えていきましょう。
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