この記事では「破産者マップ」について解説しています。
今回はこの「破産者マップ」と「破産者マップ事件の経緯・影響」について解説していきます。
破産者マップがなぜ問題になったのか、どうなったのかという点を整理して紹介していきます。
破産者マップ事件の経緯を見ていきましょう。
破産者をさらに追い込む「破産者マップ」とは
「破産者マップ」とは、「官報」に掲載された破産者の氏名・住所などをGoogleマップ上に表示するサービスを展開していたWebサイトのことです。
このサイトは2018年12月頃に開設され、2019年3月中旬に「『破産』という知られたくない情報が可視化されている」として炎上し、現在は閉鎖されています。
いわゆる「破産者マップ事件」です。
破産者の個人情報を「可視化」するサイトとして
破産者マップの何が問題だったのですか?
一つは破産してしまった方の個人情報が簡単にわかってしまうという点です。
Googleマップ上には破産者の住所を示す赤色のピンやエリアの破産者の数と思しき数値が記載されており、該当地域でどれくらいの人間が破産したか一目で分かります。
そのピンをクリックすると氏名や裁判所、事件番号などといった破産者情報が詳細に表示される仕組みとなっていました。
破産者の個人情報がワンクリックで分かるサイトだったんですね・・・。
また、この破産者情報のソースは「官報」のインターネット版サイトです。
「官報」ってなんですか?
政府が国民に対して毎日刊行する公告文書です。
他にも公告する事項はありますが、大半が「破産事件」となっています。
破産者が非常に多いことが分かります。
官報に破産者情報が載っているんですね。
はい。破産の手続きには裁判所で行い、破産の申立をすると事件番号が発行されます。
そういった情報が氏名・住所などの個人情報と共に官報に毎日公表・掲載されているわけです。
この官報のインターネット版サイトでは、直近30日の間に発行された官報をすべて無料で閲覧することが可能です。
逆に言えば、それより前の情報を無料で閲覧できるわけではありません。
過去の情報は有料となることで閲覧がしづらくなるので、一般の人であれば深追いすることはないのです。
問題の破産者マップでは、この官報から得た過去約3年分の破産事件、申立人の氏名、住所、事件番号を記載していました。
「官報」ならば30日を過ぎれば有料化されるうえに、一般の方はあまり閲覧しない傾向がありますが、破産者マップでは破産者の個人情報を保持する形で公開していたわけですね。
破産者マップ事件の経緯
事件の発端は2019年3月15日、破産者マップの破産者情報(個人情報)の公開がネット上で問題視され、炎上したことに始まります。
実際にネット上では
といったコメントを中心に、批判が殺到する形となりました。
その結果、15~17日までに破産者マップには1時間あたり200万を超えるアクセスが集中、18~19日にはアクセスができなくなったり、サイトが正常に機能しない状態になっていました。
また、破産者マップでは15日からの炎上を受け、サイト上の個人情報の削除依頼に対応していましたが、削除依頼の申請に過度な個人情報の記入を要求しており、これがさらに炎上を激化させる原因となりました。
実際に、
などといった詳細な個人情報を要求したとされ、申請後に「審査」も必要であったようです。
なお、この個人情報の取り扱いの問題については、後に政府の個人情報保護委員会が「個人情報保護法」に基づき、19日の閉鎖前にサイトを閉鎖するように行政指導に踏み切ろうとしたとされています。
参考朝日新聞DIGITAL 篠健一郎「破産者マップに行政指導 プライバシー侵害の批判相次ぐ」2019/3/20
破産者マップに対する弁護士の対応
18日には破産者マップ被害対策弁護団が設立され、クラウドファンディング「リーガルファンディング」にて支援金(法的措置に必要な費用)の援助を募る活動が始まります。
出典リーガルファンディング「破産者等の情報を大量にインターネットで公開するサイト「破産者マップ」をなくしましょう。」
弁護団はこのプロジェクトの発足について、
まず、掲載されること自体が、その人たちの名誉やプライバシーを侵害します。
本件サイトの情報が広まることにより、勤務先を解雇される、ご本人やご家族が偏見やいじめにさらされるなど、生活への悪影響が生じるおそれもあります。
(中略)
官報に掲載されているとしても、本件サイトは、インターネット上に公表することによって、既に公表された情報を人の目に触れやすくしています。
既に公表された情報であっても、これを人の目に触れやすくすることは違法行為となりえます。
(中略)
さらに、本件サイトは、削除依頼フォームにおいて、過剰な個人情報を要求しており、この点でも個人情報保護法違反に該当する可能性があります。
本件サイトの管理者は、個人情報保護に関する最低限の理解を欠いており、そのような者に個人情報を渡すこと自体、危険性がある行為であるといえます。
引用リーガルファンディング「破産者等の情報を大量にインターネットで公開するサイト「破産者マップ」をなくしましょう。」
※赤字加工
と破産者マップの危険性を述べたうえで「本件サイトの『閉鎖』に向けて、何らかの対応をとる」と宣言しました。
19日には一連の炎上を受けて破産者マップの管理者と思しき人物がTwitter上でサイトの「閉鎖」を宣言しています。
(重要なお知らせ続き)
1.サイトを閉鎖します。
2.官報から取得した破産者の情報は削除します。
3.削除申請フォームのデータは削除します。
4.本人確認書類は削除します。
5.ドメインにつきましては、今後、類似サイトが出る恐れがあるため、一定期間保持します。— 破産者マップ (@hasanmaptokyo) March 18, 2019
その後、19日中にはサイトが閉鎖されています。
しかしながら、弁護団は「Twitter上の発言は矛盾があり信頼できない」「サイト再開の危険性がある」「サイトデータの譲渡の恐れあり」「(削除依頼フォームの)官報に公告された事項を超えた個人情報の要求は問題」など「まだ危険性が残る」として破産者マップ運営者特定に向けた活動を続けました。
2019年6月時点でリーガルファインディング上の弁護団側の活動報告は途絶えており、まだ運営者特定の途中であると考えられます。
当事件の問題点「官報情報の再掲載は名誉毀損では?」
結局、この事件の問題点は何だったんですか?
この破産者マップ事件の一番の問題点(議論すべきポイント)は、「官報情報の再掲載行為」です。
弁護団ではこの行為が名誉毀損やプライバシーの侵害に該当するとしています。
炎上から3日後の18日、破産者マップの運営者と思しき人物はTwitterで以下のような発言をしていました。
破産者マップが、破産者の名誉を傷つけているというコメントをよく頂くのですが、誰もが自由に見ることができる状態で官報を公開してる図書館や大学も、破産者の名誉を傷つけているのでしょうか?公民の教科書に書いてないので教えてください。おねがいします。
— 破産者マップ (@hasanmaptokyo) March 18, 2019
これに対して破産者マップ被害対策弁護団は「活動報告」にて以下のような見解を示しています。
官報に掲載されている情報であっても伝達範囲は、事実上これを閲覧する者に限定されており、官報に掲載されているからといって実質的にも世間で周知される情報であるということはできません。(中略)公開情報であったとしても、その公開される範囲を広げることが権利侵害であると判断する裁判例も散見されるところであり、また、個人情報保護委員会が指摘するように個人情報保護法の観点からも問題があります。
引用リーガルファインディング 破産者等の情報を大量にインターネットで公開するサイト「破産者マップ」をなくしましょう。「【声明文】「破産者マップ」の閉鎖を受けて、今後の弁護団活動について」
このような見解を示しており、破産者マップ上への情報掲載は法的に問題があると述べています。
そもそも破産者情報が国が公開している「官報」に公開されているならば問題ないんじゃないんですか?
弁護団は官報で公開されていても、(官報を周知する方が比較的少なく)限定的に公開されているものと主張しています。
限定的に公開されている情報を破産者マップが再掲載してさらに拡散するような行為は「権利侵害」であると判断したわけですね。
その権利侵害ってなんですか?
権利侵害とは、法律で守られている権利を侵害される行為のことです。
名誉毀損(名誉権の侵害)、プライバシー侵害(プライバシー権の侵害)などがあります。
詳しくは下記の記事でご紹介します。
弁護団は破産者マップの再掲載行為を名誉毀損行為と捉えていました。
ここで名誉毀損がどのような権利侵害なのか確認しておきましょう。
名誉毀損が成立する条件は以下の通りです。
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用刑法「第二百三十条」
※下線部加工
成立条件を分かりやすく分解して考えていきます。
- 「公然と(公然性)」:誰でも閲覧できる場所で
- 「事実を摘示(てきし)し」:事実・ウワサ・デマ・ガセなど「何らかの情報」を示して
- 「人の名誉を毀損した者」:個人・企業の名声・信用といった価値を傷つけた人物
- 「その事実の有無にかかわらず」:示された情報は真実・虚偽に関わらない
整理すると、誰でも閲覧できるネット上で、何らかの事実(嘘か本当かは関係ない)を提示して、個人・企業の名声・信用といった価値を傷つけた人物となります。
そのため、ネットの匿名掲示板で散見される「〇〇は犯罪者」「〇〇は低学歴」といった発言は名誉毀損に問われる可能性が高いです。
弁護団はこの名誉毀損について以下のように主張しています。
一般に、破産等の経験があることは、経済的信用が低いこと、金銭管理が不得手であるなど、社会的評価を下げる事実であり、これを公表することはその人の名誉を毀損する行為であり、プライバシーを侵害する行為です。
引用リーガルファインディング 破産者等の情報を大量にインターネットで公開するサイト「破産者マップ」をなくしましょう。「【声明文】「破産者マップ」の閉鎖を受けて、今後の弁護団活動について」
破産情報の公開行為は当人に対して「破産を招くような経済的スキルの低さ」という「名誉毀損」に該当するとしています。
また、弁護団は続けて、「破産情報がサイト上に公開されると平穏な生活を送れなくなる」とプライバシー侵害の成立についても示唆しています。
このように、破産者マップ事件の問題点としては、官報の破産情報を再掲載する行為が「合法なのか」「違法なのか」という点が議論されています。
破産者マップの運営者は誰?
法的・自主的ともに運営者の「特定」には至っていません。
現時点で分かっていることは「破産者マップ」と呼ばれるTwitterアカウントが存在し、炎上の翌日から30日まで頻繁にツイートを行っていたことだけとなっています。
現在アカウントは休眠状態となっているようです。
炎上後、以下のような発言をしています。
この度の破産マップのプロジェクトでは、官報に掲載された破産者をデータの分析・可視化の対象に選び、その成果物を公開したことで、結果的に破産者や個人再生者の方々をはじめとする関係者の方々に辛い思いをさせてしましました。
— 破産者マップ (@hasanmaptokyo) March 18, 2019
このように破産者マップ事件関係者への謝罪とみられる文章が投稿されています。
また、以下のような発言もありました。
係長の立場でこんなこというのもあれなんですが、本当は破産者マップじゃなくて、警察か交通安全協会から、歩行者の交通事故発生のデータをもらって、交通事故の時間帯別ごとにマップ化して、さらに携帯アプリにそのデータいれて、危険な場所にさしかかったら携帯が震えて知らせてくれるー
— 破産者マップ (@hasanmaptokyo) March 17, 2019
交通事故データを利用したアプリを目指していたことも分かります。
破産者マップに対するTwitterの反応
破産者マップに対するTwitterの反応は以下の通りです。
破産者マップは現在自分が破産者でないから関係ないと思っているだけで、そのうち前科者マップや無職引きこもりマップ、高齢童貞、借金歴、精神疾患持ちみたいにどんどん広がっていくと、いかに周りの人間が何かしら抱えていることがわかって、人々が対立しあう社会ができあがってくる
— Cheena (@cheenanet) March 17, 2019
破産者マップ、前日までツイッターで結構ガチけんかしていた弁護士たちがそれはそれこれはこれと速攻で協力体制築いたくらい、全弁護士から敵視されている。
— ぽぽひと@睡眠重視 (@popohito) March 20, 2019
破産者マップに関する各投稿をみて思うのは、同じ士業でも破産者に対する意見は全く異なるということ。
自分は兵庫県で10年以上弁護士をして、20年以上前の震災の影響を受けて必死に事業やってきたがやむなく破産に至った例もたくさん見てきた。
「だったら借りなきゃいいのに」とか、絶対に言えない。— 杉浦健二 弁護士@STORIA (@kenjisugiura01) March 20, 2019
Twitter上でも一時は物議を醸す状況となったようです。
破産者マップのその後と復活について
破産者マップは炎上後18日に閉鎖されています。
破産者マップの類似サイトとして考えられているのがMonster Mapと呼ばれるサイトです。
サイトの「データ」からは破産者情報の確認が可能であり、氏名・住所の閲覧ができます。
専門家の意見では、破産者マップのデータを流用した第二の破産者マップと推測されています
(参考:https://twitter.com/nuco_jp/status/1194374642296709120)。
なお、「Monster Map」側ではよくある質問で破産者マップとの関係を否定しています。
今後、問題視されれば同様の炎上が予想されます。
まとめ
破産者マップ事件は、すでに公開されている情報が再度公開されることで名誉毀損になる可能性について改めて議論される機会となりました。
同様のサービスとして「大島てる」もありますが、こちらにも法的な問題などがあります。
もしお困りの方は下記の記事を参考にしていただければと思います。
また、今後同様の「マッピング」「個人情報公開サービス」が炎上の火種になると予想されます。
下記の記事を参考に炎上に注意しましょう。
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