サイバー警察とは1998年6月、警察庁が設置した「サイバーポリス体制(ハイテク犯罪対策重点推進プログラムの一環)」で設置されたインターネット上で発生する犯罪行為の取り締まりを行う組織のことです。
サイバー警察が取り締まるのは「サイバー犯罪」であり、主に著作権侵害や不正アクセス、ネットを利用した組織的犯罪などにあたります。
サイバー犯罪には、その他にも名誉毀損、信用毀損・業務妨害なども該当しています。
名誉毀損などについても取り締まっているので、全国の警察機構のサイバー犯罪対策課では、掲示板やSNSで発生したネットトラブルにも対応するというわけですね。
ところが実際には名誉毀損や業務妨害などのネットトラブルをサイバー警察に相談しても、実際に「捜査」に移ることがない=「動かない」ケースが多いとされます。
「無能」と揶揄されることもあるようですが、サイバー警察が動かないことには理由があります。この記事ではサイバー警察が動かない理由とどうしたらサイバー警察に動いて貰えるのか、解説していきます。
「サイバー警察にきちんと動いて欲しい」という気持ちも分かりますが、まずはサイバー警察にかかわる背景を知り、冷静に対応していくことが肝心です。
サイバー警察に通報しても動かない理由
サイバー警察が動かない理由について考えられるものをすべて取り上げて解説していきます。
理由1:誹謗中傷などの場合は、サイバー警察では「相談」のみ
サイバー警察は各警察署と連携を取り、被疑者を検挙します。
サイバー警察の場合は特に「不正アクセス禁止法」「器物損壊罪(ウイルスによる電子機器の破損)」「詐欺罪」「業務妨害罪(掲示板上の犯行予告など)」「著作権侵害(違法にアップロードされた著作物)」など、刑法・特別刑法を取り締まっています。
取り締まる犯罪の中には詐欺やハッキング、著作権侵害が主です。個人や企業の「財産」に危害が加えられるようなケースにサイバー警察が動く場合が多いようですね。
ネット上では発生した誹謗中傷もサイバー警察に相談すれば動いてもらえそうと思われがちですが、「相談に乗るだけ」または「管轄の警察署に被害届の提出を推奨される」で済まされてしまうケースもあるようです。
相談止まりなんですね・・・。
これには次で解説する民事不介入の原則が背景にあると思われます。名誉毀損罪や侮辱罪の立証を相談するのであれば「弁護士」の方が良いですよ!
理由2:「民事不介入」の原則があるため
「民事不介入」とは、「民事」で解決できる事案には警察が介入すべきではない、という警察の方針のことです。
事件の種類には「民事」と「刑事」の2種類があります。
まず、殺人や強盗など特定の人物やその財産に対して危害を加えるような事件が「刑事(事件)」であり、重要で緊急性が高いので警察が動き、犯人を拘束(逮捕)し、場合によっては起訴・有罪判決を行います。
それに対して「民事」は、損害賠償請求などといった個人間の紛争を指し、こちらは警察が介入することはありません。
ネット上で起こるトラブルのほとんどは、個人であれば「名誉毀損罪・侮辱罪」など警察が取り扱う刑事事件としての立証が可能です。
「ネット上の誹謗中傷が名誉毀損として立証できること」については以下の記事で解説しますので、確認しておくとさらにこの記事の内容が深く理解できるのでおすすめです。
それならばサイバー警察のような警察機関が動くはずでしょう。
ところが、こうした個人間のネットトラブルは同時に名誉権やプライバシー権などの「権利侵害(からの損害賠償請求)」として民事事件としても立証可能となっています。
警察はこうした民事事件としても取り扱うことができる事件に関しては「民事不介入」の原則をもって、消極的になる傾向があるとされます。
サイバー警察に相談された民事事件については「弁護士会や団体を紹介される」とのこと・・・。
警察機関が法律を取り締まったり、捜査をするのにもお金や時間、労力がかかります。重要な事件の捜査に支障が出ないように、基本的には「民事で解決して欲しい」というのが本音とされています。
理由3:事件の「優先順位」があるため
サイバー警察に相談した事案の被害を届け出る場合は、管轄の警察署にて被害届または告訴状(後述)を提出します。
警察は申告された事件を受理する際に「その事件の優先度を確認する」とされます。例えば、以下のような事件は優先度が高く、被害届や告訴状が受理されやすいです。
- 被害規模が大きい
- 被疑者(犯人)の逃亡の恐れが強い
- 犯罪証拠の鮮度が失われやすい
- 今後被害が拡大する可能性が高い
ところがもし「サイバー警察で相談止まりだった」「サイバー警察にいわれて管轄の警察署で被害届を出しに行ったが、受理されなかった」といった場合・・・
- 個人間の紛争で、財産を失うなど実害が発生せず、被害の規模が小さかった
- 犯人が特定(追跡)困難
- 時間が経ってプロバイダにも情報が残っていないなど証拠が見つかりづらくなってしまった
・・・などの理由で「優先度が低い」とみなされたものと思われます。
また、仮に被害届を受理しても、次で紹介するように被害届には捜査義務が発生しないので、上記の理由で優先度が低いとみなされ「捜査が一向に進まない」可能性も十分にあります。
理由4:「被害届」を提出したため
警察に事件を申告する届け出には「被害届」と「告訴状」があります。サイバー警察に相談して被害届の提出を推奨された方もいるでしょう。
被害届の場合、あくまでも被害事実の申告に過ぎず、警察側には捜査義務が発生しません。つまり、サイバー警察に推奨された被害届を提出しただけでは所管の警察も動かないということになります。
これに対して「告訴状」は、法律に定められていれる告訴権者(被害者)が、警察署にて被害事実を申告し、さらに処罰を求めるものです。捜査義務も発生します。
サイバー警察が動きやすいのは「告訴状」を提出した場合であり、サイバー警察が動かないのは捜査義務が発生しない「被害届」を提出したためと思われます。
理由5:「親告罪」の場合、サイバー警察に相談しただけでは動かない
ネット上で発生した誹謗中傷は名誉毀損罪や侮辱罪に該当するケースも多いです。
こした名誉毀損罪、侮辱罪といった犯罪は「親告罪」といって、被害者に被害の申告・処罰(告訴)を求める罪を指します。つまり、被害者が声を上げない限りは警察も動かないということになります。
「サイバー警察はもっと積極的に動かないのか」と思うかも知れませんが、名誉毀損罪や侮辱罪が親告罪である限り、進んで捜査を行うことはありません。
“動かない”サイバー警察を動かせる方法
サイバー警察は取り締まる法律が「不正アクセス禁止法」「器物損壊罪」「詐欺罪」「業務妨害罪」「著作権侵害」などであり、ネット上で発生する誹謗中傷による名誉毀損罪や侮辱罪は積極的な捜査を行わないためか「相談止まり」となってしまう可能性が高いようです。
また「相談」を受けたサイバー警察は管轄の警察署に被害の申告を求めることもわかりましたね。相談だけではなく「動いて欲しい」のであれば、端から最寄の警察署に被害届または告訴状を提出して方が良いです。
ここからは「警察に動いてもらえる」被害届と告訴状について詳しく解説してきます。
対策1:届け出たら終わりではない!「被害届」の注意点
警察には民事不介入の原則があるので、最寄の警察署に被害届を提出する場合は以下の点に注意しましょう。
- 被害の「時系列」に注意:いつどこで誰がどんな被害に遭ったのか、時系列で説明する。トラブルになった相手とのやり取りや一連の流れに関する証拠やデータを保存しておき、まとめておくことも大切。
- 「具体的」な被害を記載:「精神的苦痛」だけ記載するのではなく、具体的に精神的苦痛によりどのようなことに悪影響を及ぼしたのか、病院の診断書や金銭が分かる場合はその証書の用意をしておく。
ただ単に被害を簡潔に述べるだけではなく、客観的に見て優先度が高い重大な事件であることを証明することが大切です。
対策2:弁護士と協力して「告訴状」を提出する
告訴状であれば被害届と異なって捜査義務が発生するので「より警察に動いてもらいやすくなる工夫」としては妥当です。
最も誹謗中傷で立証可能な名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」なので、この告訴状による「告訴」が重要となります。
告訴状は様式が存在していないため、以下の内容で自分で作るか、弁護士など代理人に協力を求めて作成してもらいます。
- 告訴人(みなさん)の住所・氏名・生年月日・連絡先情報など
- “特定”した「犯人」の住所・氏名・その他個人情報
- 代理人(いる場合)に関する個人情報
- 被害届と同様に、被害の発生日時、場所、被害の内容などをできるだけ具体的・詳細に記載
- 「名誉毀損罪や侮辱罪」が成立することおよび処罰してほしい旨を記載
上記の内容は被害届の場合と同じですが、犯人の特定(プロバイダへの開示請求)と立証される犯罪名の記載が肝心になってきます。
具体的な方法は上記の記事をご覧頂きたく思いますが、法的な手続きとなるので弁護士に協力を求めた方が得策でしょう。
まとめ
今回はサイバー警察が積極的に動かない理由について解説してきましたが、誹謗中傷などのネットトラブルはサイバー警察では相談止まりであり、管轄の警察署に被害届の提出を求めるように推奨されることも分かりましたね。
民事不介入の原則と誹謗中傷下側とされた側の個人間の紛争と扱われることが多いことも分かりました。
頼るのであればサイバー警察ではなく、管轄の警察署や弁護士をおすすめします。管轄の警察署には被害届、また可能であれば弁護士と協力して告訴状の提出を行いましょう。
被害届を提出してから同様の内容で告訴状を提出することも可能ですよ。ぜひご検討ください。
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