この記事をご覧のみなさんは恐らく「ネットリンチ」という言葉を見たり聞いたりしたと思います。
意味はもちろん気になると思いますが、「もしかしたらこの嫌がらせはネットリンチかも?」と心当たりのある方もいるかもしれません。
そこで今回解説するのが、ネットリンチの概要と事例です。ネットリンチに関する必要な情報をすべて紹介していくので対策をとる前にまずは理解を深めていきましょう。
また、国はどのような対策をとっているのか気になる方に向けて、ネットリンチに関する法整備についても解説していきます。早速解説していきます。
ネットリンチとは『ネット上での集中砲火』
「ネットリンチ」という言葉自体は、安田浩一氏の「ネット死刑(リンチ)」(扶桑社、2015)が初出とされ、それ以前は各種メディア上で「サイバーリンチ」などの名前で知られていました。
近年はネット上のメディアを中心に「ネットリンチ」という表現が浸透しつつあります。主な意味合いとしては以下のようなものがあります。
- 「ネット私刑(リンチ)」安田浩一(2015)ネット私刑(リンチ)扶桑社:直接的な関わりがなくても、ネットで事件の加害者やその家族の個人情報をさらすこと
- 「晒し」を伴う、ネット上で行われる陰湿で一方的ないじめ(私刑行為)
- テレビ番組をきっかけにインターネット上で発生した誹謗中傷
- 「炎上」と称されるネット上のリンチ事例(SNSでは毎日のように発生)
- 「炎上」には不特定多数が一方的に炎上対象者対象を罵倒するネットリンチ的な側面がある
- 炎上対象者の実名や勤務先、自宅などの個人情報が暴露・拡散される行為
- ひとたび「炎上」すれば罵詈雑言
- 「みんながやっている」から(同調によって)行うネット上のリンチ
上記からネットリンチを以下のように詳しく定義できます。
「ネットリンチ」:インターネット上で発生する、不特定多数による陰湿で一方的な攻撃行為。ネットユーザーによる個人的な制裁という特徴もあるので「ネット私刑」とも言う。
ネットリンチの対象者は「特定の個人」であるが、現実で起きた事件の加害者であることも多く、事件の報道をきっかけにリンチが発生する。
攻撃の内容としては、主に事件の加害者やその家族の個人情報の「晒し」行為や誹謗中傷、罵詈雑言が伴う。「他のユーザーもやってるから」という同調によって激化。
現在のネットリンチでは、上記のようにある事件の加害者に対する攻撃という意味合いが強いです。「ネットいじめ」や「炎上」と同一視される方もいますが、意味合いが若干異なります。
「ネットいじめ」は主に学生を中心として現実のいじめの延長線上に発生するものであり、「炎上」は主に企業や芸能人による問題行為や不適切発言に対する批判の殺到です。ネットリンチでは対象者や様相が異なります。
ただし、「炎上」に関しては炎上対象者が企業関係者や芸能人であることもあり、企業や芸能人に対して一方的に誹謗中傷をするネットリンチ的な側面があるケースもあります。
ネットいじめや炎上については下記の記事をご参照ください。
ネットリンチの事例『人違いデマ』
ネットリンチは事件の報道が起きる度に小規模ではありますが発生しています。今回は世間で話題となったネットリンチの事例をご紹介します。
2011年10月に滋賀県大津市内の中学校で発生したいじめ自殺事件の主犯格となった男子生徒、並びにその家族を特定するネットリンチ行為が発生しています。
さらにはこの事件に付随し、ネット上で人違いデマによるネットリンチが数件発生しています。
本件とは無関係の大津市内の元警察官と女性が、「加害者の親族だ」と勝手に個人情報を公開され、中傷が殺到、滋賀県警は東京都目黒区内の男と兵庫県川西市の男2人を名誉毀損の疑いで書類送検しています。
その後も、ネット上で滋賀県栗東市の男性を「加害者の男子生徒の祖父」として事実無根の内容を掲載したれた兵庫県西脇市の無職の男が略式起訴され、大津簡易裁判所が罰金30万円の略式命令を出したほか、大津地裁にて民事で慰謝料165万円を請求する提訴もなされています。
このように、事件後に加害者やその関係者とされる人物の個人情報がネット上に晒されていますが、その多くは根拠がないものであり、無関係な情報もあるとされています。
多くは「特定犯」と呼ばれるネット上の集団やトレンドサイトが投稿する事実無根で不確かな情報とされています。
このデマを信じたユーザーがさらに無関係の人間にネットリンチを行い、無関係な人物や施設が被害に遭う、という悪循環が発生しています。
また、類似の事例として、2019年8月に発生した常磐道あおり運転・暴行事件に関連する人違いデマ事件もあります。
こちらの事例では人違いにも関わらずネット上に「ガラケー女」として個人情報を晒され、誹謗中傷の標的となった女性が、問題投稿の投稿者を特定し、損害賠償請求の手続きを検討する、としています。
このように、いくら「私刑」といってもやり過ぎであり、ネットリンチの参加者にも法的な責任があることを忘れてはいけません。
ネットリンチを直接禁止する法律はない
ネットリンチを直接禁止する法律はありません。ネットリンチに限らず、日本ではネット上で発生するトラブルを対処できるような法整備は未熟と言えます。
しかし、だからといって「違法ではない」というわけではありません。
現状、ネットリンチ行為の法的な責任を問うためには、ネットリンチの特徴である「誹謗中傷」や「個人情報流布」に注目して以下のような法律が適用されるケースは多いです。
- 刑法第230条「名誉毀損」
- 刑法第231条「侮辱」
- 刑法第233条・第234条・第234条の2「信用毀損・業務妨害」
- 民法第709条「不法行為責任(名誉権またはプライバシーの権利の侵害による損害賠償請求)」
- プロバイダ責任制限法第3条「送信防止措置」
- プロバイダ責任制限法第4条「発信者情報開示」
ネットリンチを受けた側は上記の法律に基づき、ネットリンチの参加者に対して法的な責任を求めることが可能です。
「誹謗中傷」は上記の法律の中でも刑法の名誉毀損、侮辱、信用毀損・業務妨害で警察に刑事告訴ができる行為となっています。
刑法については以下の記事で解説していますので、どのような法律なのか知りたい方はチェックしておきましょう。
また、誹謗中傷や個人情報の流布はそれぞれ名誉権の侵害、プライバシー権の侵害として民法709条に基づき損害賠償請求(慰謝料請求)が可能です。慰謝料の請求や民法709条については以下の記事をご参照ください。
さらに、ネット上での誹謗中傷や個人情報の流布によって権利侵害(人権侵害)が発生している場合、プロバイダ責任制限法によって投稿を削除させたり、発信者(投稿者)を特定することも可能です。
詳しくは以下の記事で解説していきます。
このようにネットリンチを規制する法律はありませんが、誹謗中傷や個人情報の流布といったネットリンチ行為の特徴や性質を細かく見ていくと様々な犯罪や法律違反が発生していることが分かります。
まとめ:ネットリンチへの対策
今回紹介した内容をおさらいしておきます。ネットリンチとは以下のように定義されます。
このような行為はネットユーザーの正義感や好奇心によって行われるものと推察されますが、中傷行為や個人情報の流布が伴い違法性がある上に、情報が不確かで対象者が「人違い」である事例も少なくありません。
ただし、このようなネットリンチを直接規制する法律がありませんので、先ほど紹介した法律を元に問題の投稿やユーザーを対処していく必要があります。
以下の記事ではネットリンチの対策をわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
コメント