この記事では新型コロナウイルスに関する誹謗中傷・風評被害への対処方法について解説しています。
2020年、新型コロナウイルスは世界的な大流行となりました。しかし、その影響は感染への恐怖に留まらず、誹謗中傷・風評被害など「社会」にも大きな打撃を与えています。
「身近でコロナの感染者が出た」というだけで誹謗中傷・風評被害の対象となる例が増えてきましたね。
今回はそのような誹謗中傷・風評被害に対する問題点と基本的な対処方針について解説していきます。
新型コロナウイルスとは?影響は社会にも
まずは「新型コロナウイルス」と社会への影響についてで解説していきます。
新型コロナウイルスとは
「新型コロナウイルス」とは、コロナウイルスの中でも、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスのことです。
正式名称は「SARS-CoV-2」または「SARSコロナウイルス-2」ですが、各種メディアでは疾患名から取った通称として「COVID-19ウイルス」と表記されるケースが多いです。
様々な名称がありますが、この記事では「新型コロナウイルス」「コロナ」と表記します。
2020年4月10日時点では新型コロナウイルスに対するワクチン・治療薬が存在せず、症状に合わせた「対症療法」が行われています。
「3密」「消毒」「感染者の封じ込め」など予防方法は確立していますが、やはり特効薬がないために感染の拡大を防ぐのが困難となっています。
国内でも感染が拡大する一方で、新型コロナウイルスへの恐怖心・ストレスが、いじめ・誹謗中傷・風評被害など様々な形で現れるようになりました。
ここからは新型コロナウイルスによって起きた社会的な問題についていくつか例を挙げてご紹介します。
「コロナハラスメント(コロハラ)」
「コロナハラスメント」とは、新型コロナウイルスの感染を疑われて嫌がらせを受けることを指します。「コロハラ」などとも呼ばれています。
2020年4月現在、職場で感染を疑われてハラスメントを受けたという事例が増えつつあり、労働組合への相談が相次いでいるとされています。
参考吉田貴司「社長から除菌スプレーを…職場で「コロナハラスメント」」朝日新聞デジタル2020年4月1日
コロナ感染に関する根も葉もない「悪質デマ」
「感染者が出た」「感染者が施設を運営している/利用していた」などといった新型コロナウイルス感染者に関するデマが相次いでいます。
例えば、精肉店の事例です。
新型コロナウイルス感染者が確認された富士宮市で、精肉店「肉のすずき」に感染者が立ち寄ったとするデマが、会員制交流サイト(SNS)上で広がっていたことが3日、店への取材で分かった。店は「保健所より連絡はない。本日も営業しています」などとツイッターに投稿し、デマを否定。店の関係者は「情報を確かめないで流すのはやめて」と訴える。
引用「「コロナ感染者来店」はデマ 富士宮の肉店、否定ツイート」4月4日 静岡新聞
このように、実際には感染の事実が確認されていないにもかかわらず、店舗・施設へのデマが拡散されている例が散見されています。
焼津市でも同様にデマの拡散が問題となりました。
焼津市で新型コロナウイルス感染者が確認されたとするデマが会員制交流サイト(SNS)上で7日夜から広まった。焼津市が8日「現在市内で感染(確認)された方はおりません」とホームページ上で否定する事態になった。
引用「「焼津で新型コロナ感染者」デマ拡散 市HPで否定」静岡新聞社 4月9日
民間教室の講師が感染の噂を拡げてしまった例であり、焼津市はホームページ上でこれを否定、デマ情報への注意を呼びかけています。
松阪市でも同様の事例が確認されています。
松阪市は8日、市内の特定の飲食店の関係者が新型コロナウイルスに感染したかのようなデマ情報が会員制交流サイト(SNS)で流れたと発表した。松阪署と連携してデマの監視を続ける一方、デマの拡散を控え、見つけた時は市に連絡するよう呼び掛けている。
引用冨田章午「「コロナ出た」SNSでデマ 松阪市が警戒」中日新聞 4月9日
松阪市内では「市内でコロナが出た」などというデマが流れ、市はこれをデマと判断しています。
このように、日本各地で市区町村内で起きたデマを該当地域を管轄する行政や関係施設が否定する例も増えています。
新型コロナウイルス感染者発生に関する不確かな噂やデマを拡散する行為は問題ですね。
「感染者はこの辺りに」個人情報流出
各都道府県内で感染者が確認・公表された際に、それに呼応して「感染者の特定」や「無許可で個人情報の公開」などを行うサイトが多数存在します。
実際にネット上には、
- 「〇〇で感染者が出た?どこに住んでいる?」
- 「感染者は〇〇勤務!家族構成は?」
- 「感染者の20代女性の住所は?」
といった記事があり、その内容は「氏名」「生い立ち」などの特定などから、憶測やデマのような不正確な内容のものまで様々です。
感染拡大の防止の観点から、感染症の動向に関する情報の開示はある程度認められているものの、個人情報の保護に努める必要はあります。
感染者が出た施設関係者への「差別的行為」
北播磨総合医療センターでは2020年3月上旬に職員4名の新型コロナウイルス感染が確認されました。最初に感染者が確認された直後、職員に対する不当な差別的対応が確認されたとしています。
当院職員に対する誹謗中傷・風評被害の事例では、“バイ菌扱い”、“引越時に引越業者からキャンセル”、“タクシー乗車拒否”などがあります。
酷い場合は、“接触していないのに家族が勤務先から有無を言わさず出勤停止を言われる”、“親族が介護施設の利用を見合わせるよう言われる”の事例もあり、実害も発生しています。
引用「新型コロナウイルス感染症の影響による誹謗中傷・風評被害について」北播磨総合医療センター
確認された4人の職員と接触した方々はごく少数で特定もされており、患者や職員の多くは接触していないと公表しています。
それにも関わらず、職員らは「バイ菌扱い」「キャンセル」「乗車拒否」など不当な扱いを受けたとしています。
続いては2020年3月14日に感染が確認された女性職員が勤務していた郡山女子大学の例です。
郡山市の70代女性が新型コロナウイルスに感染したことに絡んで、女性の勤めている郡山女子大の学生や関係者らが、見知らぬ人などから嫌がらせを受けるケースが複数件あったことが19日、分かった。識者は「明らかに差別」「あってはならない」などと指摘する。
関係者などによると、系列校の生徒が知らない男から指をさされて「コロナ」と言われたり、女性の感染について批判する内容の電話やメールが学校に届いたりしたという。
引用「郡山の学生を指さし『コロナ』 嫌がらせ受けるケースが複数件」福島民友 3月20日
郡山女子大学の系列校生徒への差別的な発言や批判的な内容の電話やメールも届いたとのことです。
このように感染が確認された施設の関係者が差別的な対応を受けるケースは全国的に見られている例とされています。
感染が拡大する地域の住民への「中傷的発言」
SNS上では国内でも感染が拡大し、患者数も多い「東京都」「大阪府」に住む地域の住人への中傷的な発言も目立ちます。
確かにSNS上では「都民は~」「大阪府民は~」という発言が増えている気がします。
外出自粛が叫ばれる中、「コロナ疎開」と呼ばれる移転行為は感染拡大のリスクがあります。問題行動ではありますが、だからといって中傷的な発言は許されません。
「なりすまし」「詐欺行為」
新型コロナウイルスと関係性は薄いですが、感染拡大に便乗した「詐欺行為」が発生しています。
厚生労働省は31日、通信アプリ大手LINE(ライン)と協力して全国のアプリ利用者を対象に実施している新型コロナウイルスに関するアンケートを装い、クレジットカード番号などを尋ねる詐欺とみられる事案の情報があるとして、注意を呼び掛けた。
厚生労働省の公式アカウントになりすまし、クレジットカード番号の記入を要求する詐欺が発生しています。
実は3月頃から厚生労働省を装った詐欺が増えていると公表しており、同省が注意を呼びかけています。
【詐欺にご注意ください!】#新型コロナウイルス 感染症に関して、厚生労働省を装い「費用を肩代わりするので検査を受けるように」と言われたり、「個人情報を聞き出そうとされた」という相談が増えています。 厚生労働省では、そのような連絡をすることはありませんのでご注意ください。
— 厚生労働省 (@MHLWitter) March 3, 2020
新型コロナウイルスに関する言動と法的問題
「誹謗中傷」「差別発言」など新型コロナウイルスに関する発言の中には他人の「人権」を侵害しているものも少なくありません。
また、新型コロナウイルスに関する「デマ」によって売上減や業務妨害など営業上の損害を被る可能性もあります。
ここからは新型コロナウイルスに関する言動とその法的な問題点について見て行きましょう。
名誉毀損罪(名誉権侵害)・侮辱罪
特定の人物への誹謗中傷や嫌がらせ発言は「名誉毀損」や「侮辱」に該当する可能性があります。
「名誉毀損」とは差別・悪口・暴言によって特定の個人の人格が否定されたり、社会的な評価(名誉権)が傷つけられた場合に成立する人権侵害です。
ただし、あくまで一個人が対象であり、「〇〇県民はコロナ民」など集団への名誉毀損は成立しません。
名誉毀損はネット上の投稿でも成立し、「刑事罰」も存在します。以下が刑法第230条で「名誉毀損」を定めた条文です。
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用刑法「名誉毀損」
成立の条件は以下の3つに分けて考えます。
- 「公然と」:誰でもアクセスできる場所で= ネット上(SNSやサイト、匿名掲示板上)で
- 「事実を摘示(てきし)し」:何らかの情報を示して= 何らかの発言、テキストなどで
- 「人の名誉を毀損した者」: 特定の個人の社会的評価(名誉)を傷つけた者
例えば、ネット上や街頭など公共の空間で
- 「〇〇はコロナ感染者だ」
- 「〇〇は感染者が出た〇〇に勤務していた」
と特定の人物に対するデマを流し、特定の個人の名誉を傷つければ名誉毀損に該当します。
また、「感染者」などと情報を示さなくても、名誉の毀損とみなされるケースがあります。それが罵倒でも成立する「侮辱」です。
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
引用刑法「侮辱」
このように侮辱の場合は情報を伴う必要はありません。
例えば「コロナだ」などと罵倒するような表現でも、特定の個人を辱めるものであれば「侮辱」とみなされます。
(刑事罰としては比較的軽微)
名誉毀損は比較的成立しやすく、ネット上の書き込みも名誉毀損と訴えられて削除に至る例が多いです。
プライバシー権侵害
プライバシー侵害とは、憲法から導かれる人権「プライバシーの権利」を侵害される行為のことです。
このプライバシーの権利で保護される情報には条件があり、以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。
- 条件1:私生活情報や私生活情報と勘違いされる情報
- 条件2:公開されると不快感や不安感を感じる情報
- 条件3:未公表の情報
多くは未公表の個人情報や私生活情報が勝手に公開された時点で成立します。
ただし、新型コロナウイルスの感染者が発覚した際は「感染症法」に基づき、感染症の動向を開示する目的で適切な情報が開示されます。
この法律のおかげで「〇〇では新型コロナウイルス感染者が〇人増えた」という情報を知ることが可能となるわけです。
この感染者の公表において感染症法では「個人情報保護の留意」が義務づけられていますが、実は具体的に個人情報をどこまで公表するか、明確な規定はありません。
感染者の「プライバシー保護」と「感染への不安」の両方を満たす情報開示のあり方が議論の的となっています。
しかし、新型コロナウイルスに関連した個人情報公開サイトなどは「氏名」「住所」などを特定しているケースもあり、場合によっては「プライバシー侵害」と考えることができます。
もし「自治体の公表以上の個人情報が流出した」というケースで、上記3つの条件をすべて満たしている場合は「プライバシー侵害」として対処していきましょう。
信用毀損・業務妨害罪
企業や病院、学校などに対する新型コロナウイルスに関する風評やデマを流した場合、「信用毀損罪・偽計業務妨害罪」が成立する可能性があります。
刑法233条では、
- 「信用毀損」:誤情報で人々をだまして、業務上の信用を損なう行為
- 「偽計業務妨害」:誤情報で人々をだまして、業務を邪魔する行為
を禁止し、企業などの経済的信用や社会的活動の自由を保護しています。
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
例えば、
- 「〇〇という会社でコロナが発生したらしい」
- 「〇〇病院でコロナのクラスターが起きた」
などのデマによって経営上の信用が損なわれたり、客足が遠のいて業務が妨害され、「風評被害」が発生した場合は、信用毀損罪・偽計業務妨害が成立します。
権利侵害と不法行為
「名誉毀損(名誉権侵害)」「プライバシー権利の侵害」は「権利侵害」です。
権利侵害が発生している場合、民法709条の不法行為に該当し、権利を侵害している人物に対して損害賠償請求が可能です。
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
権利侵害時の慰謝料請求については下記の記事でも詳しく解説していますのでご参照ください。
3つの”S”で対処を!「相談」「削除」「SEO」
新型コロナウイルスに関する誹謗中傷・風評被害の対処方法は3つあります。
- 「相談」
- 「削除」
- 「SEO」
それぞれの対処の方法を見て行きましょう。
対処方法1:「相談」
名誉毀損やプライバシーの侵害など「人権侵害」が発生してる場合、まずは国が設置した相談窓口へ「相談」してみましょう。
- 「みんなの人権110番全国共通人権相談ダイヤル」:0570-003-110(平日午前8時30分から午後5時15分まで)
- 「子どもの人権110番」:0120-007-110(平日午前8時30分から午後5時15分まで)
- 「外国語人権相談ダイヤル」:0570-090911(平日午前9時00分から午後5時00分まで)
また、電話ではなく、チャット形式の相談も受け付けています。
- 「新型コロナウイルス感染症関連SNS心の相談」:平日(18時00分~21時30分)/土日祝(14時00分~21時30分)
また、各都道府県には「人権啓発活動ネットワーク協議会」があり、人権相談所を設けているケースがあります。
下記のサイトから各都道府県の協議会のHPにアクセスし、相談所を探して問い合わせるという方法もあります。
業務妨害や信用毀損やその他の権利侵害が発生している場合は、下記の記事を参考に弁護士に相談して法的措置をとることができないか検討してみましょう。
対処方法2:「削除」
「相談」に続いて有効なのが問題情報の「削除」です。ネット上の各種コミュニケーションサービスには「削除依頼フォーム」「報告機能」「通報」など投稿の削除依頼方法が存在します。
各サービスにおいて削除依頼方法方法が異なりますので、以下の記事を参考に削除を依頼していただければと思います。
また、名誉毀損やプライバシーの侵害、信用毀損・業務妨害などが発生している場合、プロバイダ責任制限法に基づき「送信防止措置」が可能です。
この「送信防止措置」とはいわゆる「ネット上の情報の削除依頼」であり、要件を満たしていれば新型コロナウイルスに関する誹謗中傷・風評情報の削除が可能です。
詳しくは下記の記事を参考にしていただければと思います。
対処方法3:「SEO」
新型コロナウイルスに関する情報源の多くは、Googleなどの「検索エンジン」と考えられます。
例えば「〇〇(企業名) コロナ」「〇〇(氏名) コロナ」と調べて、検索結果に表示された情報の中に悪質なものがあれば検索ユーザーに誤解が生じる可能性があります。
そのような情報を提供するサイトを検索結果の一覧ページがら除外するのが「逆SEO対策」です。この対策をすることで検索結果から見えにくくすることができます。
「逆SEO対策」の詳細は以下の記事を参考にしていただければと思います。
まとめ
新型コロナウイルスによって特定の個人や法人が損害を受けた場合は、法的な措置が比較的にとりやすいです。
ただ、問題があり、「都民」や「府民」、「あの辺の人たち」など漠然とした集団に対する差別的発言は法的責任を問うことが難しいとされています。
そのような場合、個人単位や企業単位で名誉毀損、プライバシー侵害、信用毀損・業務妨害に該当しないか確認し、この記事の方法で対処していきましょう。
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