ネットの書き込みでは侮辱罪が成立することもあります。どんな要件で成立するか悩みどころです。
それに2022年には侮辱罪の罰則が強化されたというニュースが世間を騒がせましたね。
「もしかしたら昔の書き込みで侮辱罪が成立するかも」と悩んでいる最中、この侮辱罪の改正はとても不安になると思います。どんな影響があるのでしょうか。
今回はこのネットで成立するかもしれない侮辱罪について法律を得意とするライターが解説していきます。
そもそも侮辱罪って何?ネットではどんなとき成立する?
まずは侮辱罪の基本です。
侮辱罪とは
何か具体的な事実を示すことなく、誰かに見られる形で特定の人物の社会的な評価を低下させるような表現をする犯罪のことです。
具体的な事実を示さなくても成立するので、例えば特定の人物に対して「バカ」「アホ」といった暴言・罵倒をするような場合に成立します。
ただし、社会的な評価を低下とあるので誰かその発言を聞き及ぶ第三者がその場に居合わせている必要があります。
つまり、暴言・罵倒等を受けた場所が公衆の面前である必要があり、自分と相手以外周りに誰もいないような状況では成立しません。
また人目に触れる場所にそう言った内容の投稿を残すという意味合いで掲示板やSNS等ネットにおいても侮辱罪は成立します。
侮辱罪は「親告罪」?
親告罪とは「告訴」がなければ「公訴」を提起することができない犯罪のことです。
告訴とは、警察官などの捜査機関または検察官に対して、犯罪があったという事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示のことをいいます。
公訴とは、検察官が犯罪者に対して有罪の判決を求める訴えのことです。
侮辱罪の場合も、警察等にある人物による侮辱の被害について申告することではじめて、検察官が犯罪者を起訴できます。
申告なしでは犯罪者に有罪判決を与えるところまではできない犯罪なのです。
犯罪に遭った事実が公になることで被害者に不利益があったり、法的責任が軽微であったりする場合に親告罪となる場合が多いです。
侮辱罪の時効は?
侮辱罪の公訴時効は3年となりました。侮辱行為があったとき(例:ネットに書き込みがあった日)から3年以内に起訴しなければなりません。
いきなり起訴になるわけではないので身柄の拘束等の時間も考えるともう少し早めに警察に被害を申告する必要がありますね。
侮辱罪と名誉毀損罪の違い。どこからが侮辱罪?
侮辱罪と名誉毀損罪の違いは「具体的な事実の摘示」の有無です。具体的な事実とは、真偽を判別できる情報のことですね。
攻撃的な発言や投稿等が、論理的に考えて真実か偽りか判別できるような内容であれば名誉毀損罪、その判別ができないような内容であれば侮辱罪に問えます。
例えば、「あいつは詐欺師だ」というネットの書き込みはどうでしょうか?
これは詐欺師かどうか論理的に真偽を問える内容が伴っているので、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
誹謗中傷や悪口はこちらに該当することが多いです。
次に、「あいつは消えた方がいい」というネットの書き込みはどうでしょうか?
これは「消えた方がいい」かどうか、事実情報が希薄で、どうしてそのような事実が言えるのか論理的に真偽を問えるわけではありません。
つまり侮辱罪が成立する可能性があります。
このように名誉毀損罪・侮辱罪の成立を考えるなら、問題の発言や投稿等が具体的な事実が示されているのか、論理的にその内容の真偽を問えるものかどうかがポイントです。
ネットでは具体的にどんな時に侮辱罪が成立する?
以下に該当するような場合は侮辱罪が成立します(この限りではありません)。
成立し得る | 成立しない | |
場所 | ・匿名掲示板の書き込み ・Twitterのツイート ・インスタのキャプション内 ・Tiktokの動画内 ・Youtubeの動画内・コメント欄 ・LINEのトークグループ など |
・DM(1対1) ・宛先が1人だけのメール ・LINEの個人トーク など |
対象者 | 名指しまたは名指しでなくても本人とわかるような状況等、対象者が明確である | 対象者が誰とまでは明示されていない |
投稿内容 | ・消えろ ・馬鹿 ・アホ など中身がなく、具体的な事実が摘示されていない |
特に具体例はないが、社会的な信用が低下しないと判断されたもの |
ネットで侮辱罪が成立するとどんな罰則がある?
ネットで侮辱罪が成立するとこんな罰則があります。
侮辱罪の法定刑(罰則)
「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金」または「拘留(30日未満)もしくは科料(1万円未満)」です。厳罰化で前者の罰則が加わりました。
ネットで実際に侮辱罪が成立した事例
2019年1月、在日コリアンに対してヘイトスピーチをした男性が9,000円の略式命令が出ていたことが発覚しています。
2021年3月に木村花さんをSNS上で「くそ」「きもい」等と罵倒し、侮辱した罪で大阪府の20代男性が略式起訴、同年福井県の30代男性も略式起訴されています。いずれも法定刑は科料9,000円にとどまっていました。
2022年1月には旭川女子中学生いじめ凍死事件の被害女子生徒の母親に対してネット上で中傷した愛知県松山市の30代男性を愛知県の松山地検が略式起訴しています。
男は「嘘言って金を稼ごうとしている」等と侮辱していたようです。
侮辱罪厳罰化されたけど原因はネット?どう変わった?
2021年に木村花さんに対して侮辱を行った投稿者2名には科料9千円の略式命令が出ていましたが、罰が軽過ぎると批判が上がり、刑法見直しの議論が拡大し、2021年10月、法制審議会が厳罰化を古川禎久法相に答申していました。
結果、2022年には法改正が検討され、2022年7月7日、法定刑を引き上げて厳罰化する改正刑法が施行されました。改正された点は次の2つです。
- 元の法定刑「拘留もしくは科料」に「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金」を加える
- 公訴時効を1年から3年に延長
ネットの投稿者の特定には技術的にも法律的にも時間がかかります。そのため、公訴時効を3年に延長したとされています。
ただし、厳罰化で表現の自由が委縮しないかという批判もあがっており、こちらに対応すべく国は「施行後3年後(2025年)に不当な制約が発生していなかったか検証を行う」としています。
ネットで侮辱罪が成立するようなら損害賠償請求も!
侮辱罪は刑事罰ですが、民事でも法的責任を問うことができます。名誉権という権利を侵害するとして民法第709条に基づき相手に対して損害賠償請求が可能です。請求額の相場は1~10万円とされています。
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