この記事ではネットいじめの特徴や原因について解説しています。
ネットで嫌がらせを受けました。最近よく耳にする「ネットいじめ」とはどのようなものなのでしょうか。特徴や原因など基本的なことを知りたいです。
「ネットいじめ」は幅広い意味合いを持ちますが、現実世界からネット上に派生した特定の人物への「いじめ(嫌がらせ行為)」と捉えられています。
今回はこのネットいじめの特徴や原因、背景など、基本的な情報は理解し、まずはネットいじめが「どのようなものなのか」その実態を理解していきましょう。
今現在、ネットいじめを受けている方は以下の記事を参考に「相談」を行い、対処していきましょう。
ネットいじめとは?基本的には現実の「いじめ」の延長
ネットいじめとは、広義にネット上で発生する嫌がらせ行為を指しますが、国や学術機関では現実で発生したいじめ行為が仮想世界(ネット上)に派生したものとして扱われるケースが多いです。
つまり、ネットいじめとは現実でのいじめ行為の延長とも言えます。
文部科学省(2008)ではネットいじめを以下のように定義しています。
「ネット上のいじめ」とは、携帯電話やパソコンを通じて、インターネット上のウェブサイトの掲示版などに、特定の子どもの悪口や誹謗・中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うものです
対象を「特定のこども」に限定していますが、おおむねネット上で行われる嫌がらせ行為を指していますね。それではまず、どのような手口でネットいじめが行われているのか見ていきましょう。
この嫌がらせはもしや?ネットいじめの手口
ネットいじめの手口は「誹謗中傷」と「個人情報流布」の2つが顕著です。
ドワンゴおよびニワンゴによる「ネットでのいじめなどに関する実態調査(2013)」によると、その特徴(手口)は以下の通りとされています。
- 悪口・誹謗中傷・脅しなど言葉の暴力(67.4%)
- 個人の秘密や情報の流出(11.3%)
- 無視・仲間はずれ(9.8%)
- 裸体写真の提供を強要されるなど性的な暴力(2.3%)
- 金銭・物品の要求(1.5%)
- その他(7.6%)
参考RBBTODAY「「ネットいじめ・ネット嫌がらせ」、性別・職業などによりツールや内容に差」2013年12月2日
やはり誹謗中傷や個人情報の流布が多いようです。ネット上で受けた嫌がらせ行為が上記のいずれに当てはまる場合、ネットいじめを疑いましょう。
誰が対象になるの?ネットいじめのターゲット
ネットいじめの対象となるのはやはり「子ども(未成年)」がほとんどであるようで、総務省や文科省の調査データでも対象を小中高校生に絞っています。
総務省の発表では、ネットいじめを学生生活上で発生した現実世界でのいじめと比較して、以下のような実態があるとしています。
小学生のいじめ被害(2011) | |
ネット いじめ |
自分のネット上での発言にだけは、 だれもなんの反応もしてくれなかった |
ネット上で、自分になりすまして、 他の人に悪口を送られた |
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ネット上で、多くの人から 腹が立つことを書かれた |
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ネット上で、自分になりすまして、 自分が困るような情報を書き込まれた |
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自分が友だちに送ったメールを ことわりなくネット上に掲載された |
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学校 いじめ |
多くの人から腹が立つことを言われた |
知っている人たちから悪口を言われた | |
本当はしていないことを、したと言われて 自分のせいにされた |
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なぐられたり、けられたりした | |
からかわれた |
参考文部科学省「図表2-1-3-2 ネットいじめの被害経験と学校でのいじめの被害経験(小学生:上位5件)」から筆者作成
小学生のネットいじめの特徴としては以下のようなものがあるようです。
- 無視
- なりすましからの悪口
- 侮辱
- なりすましからの迷惑行為
- 個人情報(メール)を勝手に公開
「なりすまし」行為が目立つような傾向があります。続いては中学生のネットいじめです。
中学生のいじめ被害(2011) | |
ネット いじめ |
ネット上で、からかわれた |
だれのものかがわからないアドレスから、 悪口を送信された |
|
自分だけにメールがこなかった | |
ネット上に、事実とは異なる 自分の情報を書き込まれた |
|
ネット上で、危ない目にあわせると 言われた |
|
学校 いじめ |
知っている人たちから悪口を言われた |
からかわれた | |
本当はしていないことを、したと言われて、 自分のせいにされた |
|
大勢から腹が立つことを言われた | |
大勢から恥ずかしい思いを するようなことを言われた |
参考文部科学省「図表2-1-3-4 ネットいじめの被害経験と学校でのいじめの被害経験(中学生:上位5件)」から筆者作成
中学生のネットいじめでは、
- からかい
- 悪口
- 無視
- デマ
- 脅迫
といった「デマ」や「脅迫」などといった現実生活にも悪影響を及ぼすような行為が目立つようになります。
高校生のいじめ被害(2011) | |
ネット いじめ |
ネット上に、自分の画像 (絵画や写真など、加工したものを含む) を無断で掲載された |
ネット上で、からかわれた | |
自分だけにメールがこなかった | |
ネット上に、事実とは異なる 自分の情報を書き込まれた |
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だれのものかがわからないアドレスから、 悪口が相談された |
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学校 いじめ |
からかわれた |
知っている人たちから悪口を言われた | |
自分についての性的なことがら を言われた |
|
大勢から腹が立つことを言われた | |
大勢から恥ずかしい思いを するようなことを言われた |
参考文部科学省「図表2-1-3-6 ネットいじめの被害経験と学校でのいじめの被害経験(高校生:上位5件)」から筆者作成
さらにどのような被害が報告されているのか、ネットの特徴詳細に見て行きましょう。
- 画像の無断公開
- からかい
- 無視
- デマ
- 悪口
デマ・悪口に加えて、画像の無断公開があります。高校生の画像の無断公開は他の世代にはない特徴ですね。画像を公開することによって他者に嫌がらせする行為は思春期以降に見られる特徴なのかもしれませんね。
上記はあくまでも小~高校生をターゲットとした嫌がらせ行為です。しかし、社会に出ても社内などで成人(大人)をターゲットしたネットいじめは少なからず存在しています。
実際にSNSを利用した特定の社員へのネット上での嫌がらせ行為やセクハラ行為などは度々ニュースとなり、問題視されています。
ネットいじめは子どもだけに起きるとは限らないのですね。
何が問題?ネットいじめの問題性
ネットいじめは「ネット上で起こることで実害がない」と勘違いされる方がいます。そのような方にも問題性を周知してもらうためにも、「ネットいじめ」は何が問題なのか見ていきましょう。
匿名性という「書き込みやすさ」が裏目に
インターネット上のコンテンツは総じて「匿名性」が高く、氏名・住所など現実の情報を登録することはあっても公開する必要はありません。ゆえに、ネット上でいくら書き込みを行っても現実世界への影響は少ないです。
このような、匿名性の書き込みやすさにより、誹謗中傷や個人情報に関する書き込みが行われた結果、ネットいじめが発生してしまうというケースが大半でしょう。
また、その情報を見た友人・知人が連鎖的に書き込みを行ったり、情報を共有していくため、被害は拡大していきます。
短期で被害が悪化しやすい
次に「被害が短期間で悪化すること」です。
ネット上は不特定多数のユーザーが利用し、情報を閲覧できる空間です。そのため、絶え間なく集中的に書き込みなどが行われると、誰に書き込まれたか犯人を特定することが困難になっきます。
このように、ユーザーがネットいじめに集中することで被害が短期間で悪化してしまうのは大きな問題点と言えます。
個人情報や画像が悪用される
インターネット上に掲載された個人情報や画像は「保存」できることから情報収集や加工が容易にできます。そのため、現実世界でのいじめに悪用されたり、さらなる誹謗中傷の道具として悪用される恐れがあります。
さらに、ネット上に一度流出した個人情報は回収(削除)することが困難であり、ネット上の不特定多数の人間に情報が知れ渡ることで「デジタルタトゥー」にもなりかねません。
周囲の人間が実態を把握しきれない
「ネットいじめ」は文章、画像、動画、音声などネット上のコンテンツです。保護者や教師など身近な大人がネットに不慣れな場合は子どもたちのネットいじめの実態を十分に把握しきれない場合があります。
現状、保護者や教師の「ネット上のいじめ」の発見が遅れやすく、その実態を把握して効果的な対策を講じることが困難であるとされています。
ネットいじめが発生する場所
それではネットいじめはどこで発生するのでしょうか。ドワンゴおよびニワンゴによる「ネットでのいじめなどに関する実態調査(2013)」では、以下のような調査結果を発表しています。
- ネット掲示板(38.8%)
- Twitter(9.0%)
- PCメール(6.6%)
- ミクシィ(4.6%)
- 携帯メール(3.4%)
- LINE(3.1%)
- NAVERなどのまとめサイト(1.7%)
- フェイスブック(1.2%)
- Google+(0.8%)
- その他(30.8%)
参考RBBTODAY「「ネットいじめ・ネット嫌がらせ」、性別・職業などによりツールや内容に差」2013年12月2日
2013年のデータでありやや古いですが、その大半は「掲示板」または、TwitterやLINEなど「SNSツール」で発生していることが分かります。
「ネットいじめ」と言っても、上記のように場所が限定されるんですね。
ネットいじめが発生する原因と背景
ネットいじめが発生する直接的な原因や背景は、まだ詳しくはわかっていません。
ただし、ネット上のサービスの中でもユーザー登録不要で匿名性が高い「掲示板」が誹謗中傷の温床となっていることから、匿名で書き込めて現実世界への影響が少ない点がネット上の「攻撃」につながると考えられます。
こうしたネット上の環境が「ネットいじめ」がはびこる原因となっている可能性は高いです。
未成年がネットに触れる機会が多くなったという背景から、学校でのいじめの機会がネットに移行したという説も考えられますね。
他にも専門家は次のような原因を提起しています。
原因その1:ネット利用機会の増加
子どもたちのネット利用機会の増加は原因の1つとして考えられます。
原清治氏は『ネットいじめの実態とその要因(Ⅰ)―学力移動に注目して―』の中で、ネットいじめの発生要因として以下のようなポイントを挙げています。
- 1.ケータイの所持率の高さ
- 2.ケータイの利用頻度
- 3.ケータイの所有率がおおむね高い女子児童がケータイを用いたトラブルにも遭いやすい
- 4.ネットいじめの被害者となった児童が加害者に変貌するといった悪循環をもたらしている恐れ
- 5.学校生活でいじめをすると教師やクラ
スメイトにとがめられてしまうため、ネットを利用していじめを行う - 6.家庭内でのネットルールの未形成
参考原清治「ネットいじめの実態とその要因(1)学力移動に注目して」『教育学部論集』2011 p.149-150を元に筆者が作成
ケータイは「スマホ」に置き換えると分かりやすいかも知れませんね。
上記のような要因が複雑に重なり合い、ネットいじめが発生しているとされており、原因は1つではないとされています。やはり子どものネット利用機会の増加と保護者の目の届きにくさが背景にあるのでしょう。
原因その2:行為の結果を想像する「想像力」の欠如
大久保輝夫氏は、想像力の欠如がネットいじめの原因と考えています。
今、中学生や高校生、大学生がインターネットの世界で色々なトラブルを起こしている。その根本的な原因はなにかというと(中略)twitterでこんなことを書いたらこんな結果になる(中略)つまり、先のことを予想する力、「想像力」が欠けているためにいろんな問題が起こるのである。
想像力の欠如もある種、ネットいじめの原因でしょう。
確かに「自分のしたことが社会でどのような影響を及ぼすか分からない」という若年層は体感的に増えていると感じますね。
原因その3:いじめ加害者がネット上で自分の欲求を満たすため
2016年度名古屋大学学生論文コンテストにて優秀賞を受賞した『SNS といじめ~現代のネットいじめとは~』で石川(2017)氏は、SNS利用時の孤独感や疎外感、森口朗氏の『いじめの構造(2007)』をあげ、人々が「過度な否定的体験」を拭うのが「いじめ」という説をふまえて以下のような可能性を提唱しています。
以上のことから、SNSが孤独感増幅装置としての働き、この否定的体験および全能欲求の原因となり、ひいては、潜在的ないじめ加害者を生み出しているの可能性がある。
このように、SNSの利用によって孤独感・疎外感を感じた者が自分の欲求を満たすために「いじめ」の加害者になると述べており、間接的な原因としてSNSの過度な利用を挙げていることが分かります。
もちろんSNSの利用を否定するものではありません。ネットいじめの原因は分かっていませんので、過度な利用はそのようなリスクを引き起こす可能性があると考えられます。
まとめ:ネットいじめ事例の紹介
ネットいじめとは、ネット上で発生する嫌がらせ行為のことでしたね。そのネットいじめの手口は悪口・誹謗中傷・脅しなどから、個人の秘密や情報の流出まで様々なものがありました。
ネットは拡散性の高いツールでもあるため、ネットいじめは広範囲に周知されやすく、保護者らもその実態を把握できていないため、事態は悪化しやすいです。
そのネットいじめの事例として、実際に以下のようなものが存在します。
このようなネットいじめの原因は様々な要因が考えられ、1つとは限りません。
しかし、ネットいじめの背景には、加害者となりうる子どもがネットを利用する機会が多いにも関わらず、家庭内で利用ルールを設けていないという状況があると考えます。
ネットいじめが起こってからの対処ではなくネットいじめの発生を未然に防ぐためには、家庭のネット利用ルールを定めさせる必要もあるでしょう。
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