ライブ配信の光と影:配信者と視聴者が知るべき法的責任

近年、YouTube Live、Twitch、TikTok Liveなどのプラットフォームを通じて行われるライブ配信は、多くの人にとって身近なエンターテインメントになりました。投げ銭やスーパーチャットといった収益化の仕組みが確立されたことで、ライブ配信は単なる趣味を超え、プロの活動として成立するようになりました。個性豊かな配信者が、リアルタイムで視聴者と交流し、新しい文化やコミュニティを形成しています。これは、ライブ配信が持つ「光」の側面であり、多くの人々に夢と希望を与えています。しかし、その「光」の裏側には、無視できない「影」が潜んでいます。

ライブ配信はリアルタイムで行われるため、一度不適切な発言や行為が行われると、瞬く間に拡散され、取り返しがつかなくなるリスクがあります。視聴者からの心ない誹謗中傷や、配信者自身による炎上発言が社会問題に発展するケースも後を絶ちません。こうしたトラブルは、配信者の活動を停止に追い込んだり、視聴者間の対立を引き起こしたりするだけでなく、名誉毀損やプライバシー侵害といった深刻な法的問題へと発展します。特に、ライブ配信中の発言は、アーカイブとして残り続けることが多く、いわゆる「デジタルタトゥー」となって未来永劫、その人を苦しめることになります。

國次将範
國次将範

本記事では、ライブ配信がもたらす法的リスクに焦点を当て、配信者と視聴者の双方が知っておくべき法的責任について、具体的に解説します。

配信者が知っておくべき著作権や肖像権、プライバシー権に関する注意点、そして視聴者による誹謗中傷やストーカー行為から身を守るための対策。逆に、視聴者が不用意なコメントや行動によって負う可能性のある法的リスクについても、詳しく見ていきます。ライブ配信を安全に、そして健全に楽しむために、今こそ法律の知識を身につけることが不可欠です。この記事が、ライブ配信に関わるすべての人々が、法的なトラブルから身を守るための羅針盤となることを願っています。

 

 

ライブ配信者が知っておくべき法的リスクと対策

 

誹謗中傷と名誉毀損から身を守る

ライブ配信の世界では、匿名性を盾にした誹謗中傷が横行しています。人気配信者であればあるほど、アンチコメントや根拠のないデマにさらされる可能性が高まります。これらの誹謗中傷は、配信者の精神的苦痛だけでなく、収益の減少やスポンサー契約の打ち切りといった経済的損失にも直結します。

誹謗中傷から身を守るための具体的な方法

  • コメントフィルターとブロック機能の活用: 多くのライブ配信プラットフォームには、特定のキーワードを含むコメントを自動的に非表示にしたり、特定のユーザーをブロックしたりする機能が備わっています。不快なコメントを未然に防ぎ、配信環境をクリーンに保つために、これらの機能を積極的に活用しましょう。
  • 証拠の保全: 悪質な誹謗中傷コメントやデマが投稿された場合、感情的に反応する前に、まずは冷静に証拠を保全することが最も重要です。コメントのスクリーンショットを撮るだけでなく、投稿日時、ユーザー名、URLなどを詳細に記録します。ライブ配信のアーカイブ機能があれば、その動画を保存し、問題の箇所を特定しておきましょう。これらの証拠は、後に行う発信者情報開示請求損害賠償請求において不可欠なものとなります。
  • 弁護士への相談: 誹謗中傷がエスカレートし、自力での対応が困難になった場合は、速やかにインターネットトラブルに詳しい弁護士に相談しましょう。弁護士は、コメントの違法性を判断し、プロバイダへの削除要請や、加害者の特定手続きを代行してくれます。個人で対応するよりも、専門家の力を借りることで、迅速かつ確実に問題を解決できる可能性が高まります。

 

著作権、肖像権、プライバシー権の侵害リスク

ライブ配信では、背景に映り込む映像、BGMとして流す音楽、ゲームの実況プレイなど、様々なコンテンツが配信されます。これらの中には、著作権や肖像権、プライバシー権といった他者の権利を侵害するリスクが潜んでいます。

侵害を避けるための具体的な注意点

  • 著作物の使用許可: 音楽や映画、アニメ、ゲームなどの著作物を使用する場合、必ず事前に著作権者の許可を得るか、著作権フリーの素材を利用しましょう。BGMに人気アーティストの楽曲を使用するだけで、著作権侵害となり、法的措置やアカウント停止の対象となる可能性があります。特に、ゲーム実況においては、各ゲーム会社のガイドラインを事前に確認し、ルールを守ることが非常に重要です。
  • 肖像権・プライバシー権への配慮: ライブ配信中に、許可なく第三者の顔や個人情報が映り込まないよう細心の注意を払いましょう。街中での配信や、友人・知人との共同配信を行う際には、必ず事前に肖像権やプライバシー権の同意を得ることが不可欠です。モザイク処理や音声加工も有効な対策となります。
  • プライベート情報の非公開: 自身の住所、電話番号、勤務先といった個人情報は、絶対に配信中に明かしてはいけません。何気ない背景に映り込んだ風景や、反射した映像から、個人情報が特定される「特定リスク」も考慮し、配信環境を整えましょう。

 

ライブ配信の視聴者が知るべき法的責任

 

誹謗中傷コメントによる名誉毀損・侮辱罪のリスク

視聴者は、匿名で気軽にコメントを投稿できるため、不用意に誹謗中傷を行ってしまうことがあります。しかし、軽い気持ちで書き込んだコメントが、名誉毀損罪や侮辱罪に問われる可能性があります。

法的責任を問われるコメントの具体例

  • 名誉毀損: 「あの配信者は詐欺師だ」「○○は違法行為をしている」といった、社会的評価を低下させる具体的な事実を書き込む行為。事実の真偽に関わらず、公然と事実を摘示した時点で名誉毀損となる可能性があります。
  • 侮辱罪: 「ブス」「キモい」「頭が悪い」といった、事実を摘示せずに、相手を罵倒し、社会的な評価を低下させる行為。侮辱罪は刑法上の犯罪であり、懲役刑や罰金刑が科される可能性があります。
  • 業務妨害: 配信者の信用を失墜させ、活動を妨害するような虚偽の情報を拡散する行為。これも民事上の損害賠償請求や、刑事上の業務妨害罪の対象となります。

視聴者が負う法的責任

これらの行為を行った視聴者は、配信者から発信者情報開示請求を受け、氏名や住所、電話番号といった個人情報が特定される可能性があります。特定された後は、慰謝料などの損害賠償請求を求められることになります。

國次将範
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匿名だからと安易な気持ちで書き込んだコメントが、人生を大きく変える事態を招くことを認識しなければなりません。

 

 

ストーカー行為とプライバシー侵害

ライブ配信中に、配信者のプライベートな情報を探り出し、SNSの投稿と結びつけて個人情報を特定しようとする行為も問題となっています。これは、プライバシー侵害や、悪質な場合はストーカー規制法の対象となる可能性があります。

ストーカー行為とみなされる可能性のある行為

  • 執拗なコメントやメッセージ: 配信中に何度も同じようなコメントを繰り返したり、個人的なメッセージを大量に送ったりする行為。
  • 個人情報の特定: 配信中の背景や何気ない会話から、配信者の自宅や行動範囲、勤務先などを特定しようとする行為。
  • 現実世界でのつきまとい: 特定した情報を基に、配信者の自宅やイベント会場で待ち伏せしたり、つきまとったりする行為。

これらの行為は、配信者に深刻な精神的苦痛を与えるだけでなく、刑事罰の対象となります。視聴者は、配信者との適切な距離感を保ち、現実世界での接触を試みるべきではありません。

 

法的措置の費用と示談交渉の実態

 

弁護士費用と訴訟費用の相場

ライブ配信に関連する法的トラブルを解決するためには、弁護士費用や訴訟費用が必要となります。これらの費用は、事案の複雑さや弁護士事務所によって大きく異なりますが、一般的な相場を知っておくことは重要です。

誹謗中傷案件の弁護士費用の目安

  • 相談料: 法律事務所の初回相談料は、30分5,000円〜1万円が一般的です。無料相談を受け付けている事務所もあります。
  • 着手金: 弁護士に正式に依頼する際に支払う費用です。発信者情報開示請求や削除請求では、10万円〜30万円が相場となります。複数のプラットフォームを相手にする場合は、追加費用が発生します。
  • 報酬金: 請求が成功した場合に支払う成功報酬です。損害賠償請求で得られた金額の10%〜20%が一般的です。
  • 実費: 訴訟手続きにかかる印紙代や郵券代、通信費、謄写費用など。数万円〜数十万円になることもあります。

費用の注意点

これらの費用は、被害回復が成功しなかった場合でも返金されないことが多いため、弁護士と事前に費用体系について十分に確認することが不可欠です。

 

示談交渉の重要性と流れ

発信者情報開示請求によって加害者が特定された後、多くのケースではいきなり訴訟に発展するのではなく、示談交渉が行われます。示談交渉は、訴訟よりも迅速に、かつプライバシーを保護しながら問題を解決できるメリットがあります。

示談交渉の具体的な流れ

  1. 特定した加害者への通知: 弁護士が、特定した加害者に対し、被害者の代理人として通知書を送付します。この通知書には、誹謗中傷の違法性、損害賠償の請求、示談交渉の提案などが記載されます。
  2. 交渉の開始: 加害者側から連絡があれば、示談の条件について交渉を行います。慰謝料の金額、謝罪文の掲載、再発防止の約束などが主な交渉項目です。
  3. 示談書の作成: 交渉が合意に至れば、示談書を作成し、双方が署名・捺印します。示談書には、合意内容が詳細に記載され、法的な拘束力を持ちます。

示談交渉を成功させるためには、被害者が受けた損害の大きさ、加害者の悪質性、社会的地位などを総合的に考慮し、適切な慰謝料額を提示することが重要です。

 

ライブ配信における通報・削除依頼の実務ガイド

 

プラットフォームへの通報・削除依頼

悪質なコメントやコンテンツを発見した場合、最も迅速な対処法は、プラットフォームの通報機能を利用することです。各プラットフォームは、利用規約やコミュニティガイドラインに違反する投稿に対し、独自の基準で削除やアカウント凍結の措置を講じます。

具体的な通報手順

  • 通報ボタンの活用: ライブ配信のコメントやチャット欄には、通常、不適切な内容を通報するためのボタンが設置されています。
  • 通報内容の正確な記述: 通報の際、どのルールに違反しているか(例:誹謗中傷、嫌がらせ、プライバシー侵害)を具体的に記述することが重要です。
  • 証拠の提出: プラットフォームによっては、スクリーンショットや動画クリップの提出を求められることがあります。事前にこれらの証拠を準備しておくと、スムーズに対応が進みます。
國次将範
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ただし、プラットフォーム運営による削除はあくまで運営側の判断に委ねられるため、必ずしもすべての通報が削除につながるわけではありません。

発信者情報開示請求のプロセスと費用

プラットフォームが投稿を削除しない場合や、損害賠償請求を求める場合は、法的手段である発信者情報開示請求を検討します。この手続きは、加害者を特定するために不可欠です。

手続きのステップと費用

  1. 発信者情報開示請求の要件確認: まず、投稿内容が名誉毀損プライバシー侵害などの違法性を満たしているか、弁護士と相談して判断します。この段階で、弁護士費用が発生します(相談料:数千円〜1万円程度)。
  2. コンテンツプロバイダへの開示請求: YouTubeやTwitchといったプラットフォーム運営者に対し、IPアドレスの開示を求めます。この段階で、弁護士への着手金(10万円〜20万円程度)が発生することが一般的です。
  3. アクセスプロバイダへの開示請求: コンテンツプロバイダから得たIPアドレスを基に、通信事業者(NTT、KDDIなど)に対し、契約者情報(氏名、住所など)の開示を求めます。この段階でも、別途着手金(15万円〜25万円程度)が発生することが多いです。
  4. 損害賠償請求: 加害者が特定された後、弁護士が代理で損害賠償の請求を行います。この段階で、別途着手金や、成功報酬(獲得した賠償額の20%〜30%程度)が発生します。

これらの手続きは、改正プロバイダ責任制限法により簡素化されましたが、依然として時間と専門知識を要します。そのため、弁護士や専門機関への相談が不可欠です。

 

ライブ配信と法:知っておきたい判例のポイント

 

誹謗中傷コメントに関する判例

ライブ配信のチャット欄での誹謗中傷が法的に争われた事例は多数存在します。

具体的な判例のポイント

  • 特定の文脈での違法性: 裁判所は、投稿単体ではなく、その投稿がなされたライブ配信の文脈全体を考慮して違法性を判断します。例えば、特定の話題で盛り上がっている中で行われた発言か、悪意を持った発言かを総合的に検討します。
  • 匿名でも特定可能: 判例上、匿名アカウントによる誹謗中傷コメントであっても、違法性が認められれば発信者情報開示請求が認められています。特に、同一人物が複数のアカウントを使って誹謗中傷を繰り返すケースでは、その悪質性が高く評価される傾向にあります。

 

著作権侵害に関する判例

ゲーム実況配信を巡る著作権侵害の裁判も注目を集めています。

具体的な判例のポイント

  • ゲームメーカーの姿勢: 多くのゲームメーカーは、収益化を伴うゲーム実況をガイドラインで認めていますが、一部のメーカーは著作権侵害として法的な措置を講じています。判例では、ガイドラインの有無やその内容が、違法性の判断において重要な要素となります。
  • 実況者の独自性: 裁判所は、単にゲームプレイを流しているだけでなく、実況者の解説や編集、リアクションが創作性を有するかどうかを判断要素とすることがあります。しかし、著作権侵害の原則は変わらないため、配信者は常に権利者のガイドラインを遵守する義務があります。

 

プラットフォーム運営者の役割と未来の展望

 

プロバイダ責任制限法とプラットフォームの責任

日本の法律であるプロバイダ責任制限法は、ライブ配信プラットフォーム運営者にも大きな影響を与えます。この法律は、違法なコンテンツ(誹謗中傷など)が投稿された際に、被害者からの要請があれば、プロバイダは発信者情報開示に応じる義務を定めています。

プラットフォーム運営者の法的責任

  • 削除義務: 違法な投稿やコメントが明らかであるにもかかわらず、放置したままにしておくと、運営者自身も共同不法行為責任を問われる可能性があります。
  • 発信者情報開示義務: 裁判所からの開示命令があった場合、運営者は速やかに発信者情報(IPアドレス、氏名、住所など)を開示しなければなりません。
  • 自主的な対策の重要性: 多くの大手プラットフォームは、法律に則り、自主的なコミュニティガイドラインを策定しています。違反者に対するアカウント停止や永久追放といった厳しい措置を取ることで、違法な投稿を減らす努力をしています。
國次将範
國次将範

ライブ配信サービスを利用する際は、必ずそのプラットフォームのコミュニティガイドラインを確認し、どのような行為が禁止されているかを理解しておくことが重要です。

 

 

健全なライブ配信文化を築くために

ライブ配信は、人々が自己表現を行い、多様なコミュニティを形成する上で、非常に大きな可能性を秘めています。しかし、その健全な発展のためには、プラットフォーム運営者、配信者、そして視聴者全員が、それぞれの役割と責任を深く理解することが不可欠です。

  • プラットフォーム運営者: 違法なコンテンツに対する監視体制を強化し、通報システムをより効果的に運用することで、安全な配信環境を提供する必要があります。
  • 配信者: 自身の発言や行動に責任を持ち、炎上リスクを回避するためのリスクマネジメントを学ぶべきです。また、視聴者との健全なコミュニケーションを心がけることが重要です。
  • 視聴者: 匿名性を盾に無責任な発言をせず、他者への敬意を払った上でコメントやリアクションを行うネットリテラシーを身につけることが求められます。
國次将範
國次将範

私たち一般社団法人ネット削除協会は、ライブ配信を巡る法的トラブルの解決を支援するとともに、啓発活動を通じて、誰もが安心して楽しめる健全なインターネット社会の実現に貢献していきます。

ライブ配信に関わるすべての人々が、この「光と影」を理解し、より良い未来を築いていくことを願っています。

 

 

ネットトラブル
この記事の監修者
國次@ネット削除の専門家

インターネットの誹謗中傷対策、削除の専門家。5ちゃんねるを始めとする、各種書き込みの削除、下位表示させるプロ。特に企業案件を得意とし、ネガティブな口コミ、サジェストキーワードを常に監視、対策している。携わった案件は1,000以上。お困りの場合は、以下↓LINEからお気軽にお問い合わせください。

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