誹謗中傷は警察に相談できるのでしょうか?結論から申し上げますと、相談できます。
警察は刑法や条例といった法令で規定されている罪を犯した者を取り締まります。ゆえにそうした「犯罪行為」に該当する案件であれば当然ながら警察に相談できます。
誹謗中傷は特定の人物に対して悪口やデマを言い、傷つけることです。刑法上の名誉毀損罪・侮辱罪といった犯罪行為が成立する可能性があり、警察に相談できます。
現に各都道府県警察では誹謗中傷への対応に関する情報発信を行っています。
しかしながら「誹謗中傷で警察に相談しても動かない」という情報をあちこちで見かけます。今回は誹謗中傷で警察が動かない原因と動いてもらう相談や通報の仕方を解説していきます。

誹謗中傷でお困りの方はぜひご覧ください。
誹謗中傷で警察が動かない原因
誹謗中傷で警察が動かない原因は次の3つです。
警察に「事件性が低い」と判断されたため
警視庁によると令和2年中の110番通報受理件数は8,398,699件です。無応答やいたずら、かけ間違いなどは計上していないそうですが、それでも1日に23,010件程の110番通報を受理しています。
また当然1日で全ての案件に対処しきれるわけではありません。

通報の数を見ただけでも警察は膨大な案件を抱えていることがうかがい知れますよね。
警察の人員も限られています。受理した案件を事件として捜査するためには優先順位をつけなければなりません。殺人や強盗など事件性が高いものが優先となります。
誹謗中傷も警察に相談することができたり、名誉毀損や侮辱罪などとして告訴状を提出したりはできますが、警察がそのあと実際に動くかどうかは証言や証拠から事件性が高いかと判断できるかどうかにかかっています。
警察には「民事不介入の原則」があるため
警察が扱うのは他人に危害を加えるような、いわゆる「刑事事件」で、誹謗中傷は名誉毀損罪や侮辱罪が成立する可能性がある刑事事件とみなされます。
誹謗中傷はそれとは別に「民事事件」とみなされる可能性もあります。
「民事」とは個人間や企業間、または個人・企業間の紛争のことで、誹謗中傷は個人間の紛争として民事として捉えられることがあります。損害賠償請求や貸金の返還などがそうです。

「民事不介入の原則」というのは、警察が民事の紛争に介入するべきではないという警察の原則のことです。
誹謗中傷は刑事事件・民事事件の両方として扱われる可能性があるものの、通報や相談を受けた担当者が民事事件として処理することもあります。
そうなれば民事不介入の原則に基づき、誹謗中傷として相談や通報をしても警察は動かないというわけです。
日本では「表現の自由」が保証されているため
表現の自由とは憲法で定められている「すべての表現は自由に発信することができる権利」のことですよね。
警察による誹謗中傷案件への介入は誹謗中傷発言をした者の表現の自由を損うことになるので警察はこうした案件の処理に消極的になるとされています。
警察が動く誹謗中傷とは
誹謗中傷を通報・相談したものの警察が動かないのは「事件性が低い」「個人間で争われる民事事件である」「「表現の自由」を侵害する結果となるだけような案件である」などと判断され、他の案件に埋もれているためです。
つまり、誹謗中傷が、被害が発生していることを客観的な数字や事実を交えて立派な刑事事件が発生していることを警察に通報することができれば警察も動く、ということです。もう少し詳しく特徴を見ていきます。
特徴①:誹謗中傷の内容で名誉毀損罪・侮辱罪が成立している
名誉毀損罪(刑法230条)は、事実を摘示し、公然と人の社会的評価を低下させた場合に成立します。
例えば、SNS上で特定の人物に対する誹謗中傷(事実)を投稿(摘示)して誰でも閲覧できる状態にし、その人物のイメージや品性、信用など(社会的評価)を損なった場合に成立する可能性があります。

SNS上で書き込まれたデマや嘘の情報などでイメージを損ねたケースが想像しやすいでしょうか。
侮辱罪(刑法231条)は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立します。
名誉毀損罪の場合、ある程度、掲示された情報の中にイメージや信用などを損うような話の筋道が必要です。
これに対して侮辱罪の場合、例えば「バカ」や「役立たず」などと抽象的な表現だけであっても侮辱罪が成立する可能性があります。
こうした名誉毀損罪や侮辱罪が発生していると具体的に事件性を主張できる誹謗中傷であれば警察も積極的に動く可能性があります。
特徴②:実際に被害が発生している
誹謗中傷による精神的なダメージにより病院に通院することになった、自分や親族が休職することになった、誹謗中傷を受けた方が亡くなってしまったなどと誹謗中傷によって実際に被害が発生している場合、警察が積極的に動く傾向があるとされます。
特徴③:「公益性」が高い
捜査の結果、誹謗中傷を行った人間を検挙することが、特定の個人や組織だけではなく、広く社会一般の利益となることです。公益性が高いような案件に政治家の汚職や上場企業経営陣の失態などが該当します。

感覚的にわかりやすくいうと「ニュースのネタになりやすい」といいうことです。
誹謗中傷の場合は、広く世間で物議を醸し新たな知見や誹謗中傷の抑止につながるような案件の場合、警察が積極的に動く可能性があります。
警察が積極的に動くには|誹謗中傷を捜査してもらう対処法
警察に動いてもらうには誹謗中傷の相談や通報の“仕方”も大事です。次の3つを意識して実践してみてください。
対処法①:実際の被害に関する証拠を準備して提出する
通報の際は数字を交えながら、具体的に状況を説明しましょう。
誹謗中傷のあった日時、書き込みが残っているならそのスクリーンショット、URL、フォロワー数、拡散数など当時の状況を説明する資料をA41枚でいいので作ってみましょう。
また、精神的な被害によって通院することになった場合は領収証、休職した場合は給与明細などを添付してどのくらいの損害が発生したか具体的に説明できるようにしておきましょう。
対処法②:被害届ではなく、告訴状を提出する
被害届は犯罪があったという事実の申告するだけです。
名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」といって犯罪の告訴が必要になります。その際に利用するが「告訴状」です。
また告訴状には操作の義務が発生します。受理されれば警察は積極的に捜査を始めることになります。

告訴状の作成には法的な知識も必要になるので弁護士に依頼することをお勧めします。
対処法③:「生活相談課」よりも「サイバー犯罪対策課」に相談する
各都道府県警察署には生活相談課が設けられており、普段の生活で事件の発生には至らずとも相談ができる窓口があります。警察署員に誹謗中傷を相談するとおそらくはこの課に誘導されるのではないかと思われます。
相談や通報がより効果的なのが「サイバー犯罪対策課」です。こちらはネット上の犯罪行為を取り締まっており、SNSでの誹謗中傷であればこのサイバー犯罪対策課に相談した方がいいです。
警察だけではなく弁護士に相談し、誹謗中傷による損害の賠償を請求する
「告訴状を作って誹謗中傷を警察に通報したい」「誹謗中傷をしてきた相手に対して損害賠償請求をしたい」という場合はぜひ弁護士にご相談ください。
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