期限と聞くと焦ってしまいますよね。時効は明日明後日に来るものではありませんので、まずは落ち着きましょう。
時効は法律で年単位で定められているものが多く、裁判で十分に審議ができるだけの余裕はあります。
そこで今回は、次の誹謗中傷の時効は実際にどれくらいなのかを解説していきます。
- 名誉毀損罪の時効
- 侮辱罪の時効
- プライバシーの侵害の時効
まずは誹謗中傷の時効を知り、誹謗中傷投稿に対して次にすべき対応を考えましょう。
また、この記事は「名誉棄損ってなんだっけ?」「法律なんて知らない」という方でも理解できる内容となっていますので、なるべく多くのみなさんの参考になれば幸いです。
それではネット誹謗中傷の時効について説明します。
名誉毀損の時効と損害賠償請求期限
この章では、誹謗中傷のうち名誉毀損の時効について、以下の項目を踏まえながら説明していきます。
- 名誉毀損罪の時効
- 名誉毀損罪は親告罪
- 名誉毀損の損害賠償請求期限
それでは、名誉毀損罪の時効を押さえていきましょう。
名誉毀損罪の時効
名誉毀損罪の公訴時効は3年です。
公訴時効は、 犯罪が終わってから一定期間が過ぎると、被疑者の起訴ができなくなることです。
また、公訴時効は犯罪行為が終了した時点から起算されます。
つまり、名誉毀損の例で考えれば、 誹謗中傷投稿が投稿された日時(投稿日時)から3年が過ぎると、誹謗中傷の犯人に刑罰を下せなくなってしまうわけです。
例えば、2019年1月20日に名誉を傷つける投稿が投稿されたら、その公訴時効は2022年1月20日となり、2022年1月20日が過ぎると被疑者の起訴ができなくなります。
このように、名誉毀損罪の公訴時効は、誹謗中傷投稿から3年であり、3年が過ぎると過ぎると、被疑者の公訴ができなくなってしまうことを指すのです。
親告罪である名誉毀損は告訴をする必要がある
名誉毀損罪は親告罪です。
親告罪では被疑者やその身内の方が「告訴」をしないと、警察や検察は動いてくれません。
告訴とは、被疑者や身内の方が警察や検察に犯罪事実を申告することです。
ゆえに、名誉毀損罪で犯人に刑罰を与えたい際は、被害者側から告訴を行う必要があります。
名誉毀損罪には6ヶ月以内という告訴の期限がある
名誉毀損罪には告訴の期限があり、「告訴期間」と呼ばれます。
この名誉毀損の告訴期間は、 犯人を知った日から6ヶ月以内と定められているのです。
この「犯人を知った」というのは「犯人が分かった」という意味で、必ずしも犯人の氏名・住所を特定する必要がありません。
ネット上での名誉毀損ならば、間違いなく犯人とみなせる証拠が見つかった時点で「犯人を知った」ことになります。
ここまでの内容は複雑なので、例を用いて理解しましょう。
名誉を傷つける投稿が投稿された日時 | 犯人を知った日 | 告訴期間(犯人を知ってから6ヶ月) | 公訴時効(3年) |
2019年1月20日 | 2019年3月20日 | 2019年9月20日 | 2022年1月20日 |
2019年1月20日に誹謗中傷投稿が投稿されてその投稿の犯人を2か月後に知ったとしたら、2019年9月20日を過ぎると告訴ができなくなります。
つまり、上記の例だと2019年9月20日を過ぎると、犯人に刑罰を下せなくなってしまうのです。
公訴と告訴、起訴の違い
- 公訴は、「検察官」が被疑者の刑事事件について裁判所に裁判を求めることを指します。
- 告訴は、「被害者や身内の方」が警察や検察に犯罪があったことを述べて、犯人の処罰を求めるものです。
- 起訴は、裁判所に訴えを起こすことを指します。
名誉毀損の場合は、まずは捜査機関に告訴して犯罪のあった事実を述べて、捜査機関が操作を行い犯人を逮捕します。
その後検察が被疑者を起訴して、裁判で被疑者の審判を行い、被疑者に刑罰を下す流れとなるのです。
公訴はこの流れの中で、検察が被疑者を起訴することを指します。
名誉毀損の損害賠償請求期限
万が一公訴時効や告訴期間が過ぎても、名誉毀損で損害賠償請求することはできます。
なぜなら、公訴や告訴は「刑法」を用いて審議されるに対して、損害賠償請求は「民法」を用いて審議されており、用いる法律が異なるためです。
法律が異なれば、訴訟に関する期間も変わります。
ゆえに、公訴時効や告訴期間が過ぎても、 名誉毀損で損害賠償請求することはできるのです。
名誉毀損は刑法で「名誉毀損罪」でしたが、民法では「 不法行為」とみなされます。
この不法行為とは、ある人物が他人の権利や利益を違法に侵害する行為のことです。不法行為が認められた場合、加害者に対して損害賠償を請求できます。
名誉毀損で損害賠償を請求するのにも期間がある
民法第724条では損害賠償の期間を次のように定めています。
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
「加害者を知った時」は、 加害者を特定して住所や氏名を知っている状態を指します。
混同してしまいがちなのが、刑法の名誉毀損罪における告訴期間です。
名誉毀損罪の告訴期間で起点とされた「犯人を知った日」は、間違いなく犯人とみなせる証拠が見つかった時点で「犯人を知った」ことになりましたね。
それに対して、 不法行為の損害賠償請求で起点とされる「加害者を知った時」は、犯人の住所氏名を特定したときです。
民法で損害賠償を請求するためには、犯人の氏名や住所が必要となると覚えておきましょう。
次のような例を考えましょう。
加害者を知った日 | 名誉を傷つける投稿が投稿された日 | 損害賠償請求の請求期限 | 備考 |
2018年12月20日
(3年後は2021年12月20日) |
2016年1月20日
(20年後は2036年1月20日) |
2021年12月20日 | 投稿日から20年よりも加害者を知った日から3年の方が早い |
2019年1月20日
(3年後は2022年1月20日) |
2000年2月20日
(20年後は2020年2月20日) |
2020年2月20日 | 加害者を知った日から3年よりも投稿日から20年の方が早い |
このように、損害賠償請求の請求期限は「加害者を知った時から3年」か「投稿が投稿されてから20年」のどちらか早い方に成立します。
侮辱罪の時効について
この章では、誹謗中傷のうち侮辱罪の時効について、以下の項目を踏まえながら説明していきます。
- 侮辱罪の時効
- 侮辱罪は親告罪
- 侮辱の損害賠償請求期限
それでは、侮辱罪の時効について押さえていきましょう。
侮辱罪の時効と損害賠償請求期限
ネット上の誹謗中傷のうち、 侮辱罪の時効は1年です。厳密には、侮辱罪として犯人に刑罰を与えることができる公訴時効は1年となります。
つまり、ネット上での侮辱行為から1年で刑罰を下せなくなるのです。
たとえば、2019年1月20日に誹謗中傷として侮辱を含む内容の投稿が投稿された場合、2020年1月20日に時効が終了します。
親告罪である侮辱罪は告訴をする必要がある
侮辱罪も名誉毀損罪と同じく親告罪です。ゆえに、犯人に刑罰を受けさせるためには、捜査機関に告訴を行い、犯人を逮捕してもらう必要があります。
告訴を行うまで捜査機関は動かないので、被害者側が被害を報告するほかありません。
侮辱罪には6ヶ月以内という告訴の期限がある
侮辱罪も名誉毀損罪と同じく告訴の期限があり、犯人を知ってから6ヶ月以内と定められています。
「犯人を知る」というのは、名誉毀損罪の場合と同じく、犯人であるという証拠を取り揃えることができた時点です。
それに対して、さきほどの公訴時効が1年となっています。
この告訴期間ですが、公訴時効と比べて、どちらか早い方の期間が終了した時点で告訴する権利が消滅してしまうのです。
次の例で考えましょう。
侮辱とみなせる投稿が投稿された日 | 犯人を知った日 | 告訴期間 | 公訴時効 |
2019年1月20日 | 2019年3月20日 | 2019年9月20日 | 2020年1月20日 |
この例の場合、告訴期間の方が公訴時効と比べて短いので、2019年9月20日が公訴期間の終了日となります。
この2019年9月20日を過ぎると、告訴する権利が消滅してしまうわけですね。
侮辱の損害賠償請求期限
侮辱の損害賠償請求も基本的には名誉毀損の損害賠償請求のケースと同じです。
侮辱罪の時効である1年が過ぎても、侮辱で損害賠償請求することならできます。
なぜなら、侮辱罪は「刑法」を用いて審議されるに対して、損害賠償請求は「民法」を用いて審議されており、用いる法律が異なるためです。
法律が異なれば、訴訟に関する期間も変わります。ゆえに、時効が過ぎても、侮辱で損害賠償請求できるのです。
侮辱は刑法では「侮辱罪」でしたが、民法では「不法行為」とみなされます。
この不法行為とは、ある人物が他人の権利や利益を違法に侵害する行為のことでしたね。
不法行為が認められた場合、加害者に対して損害賠償を請求できます。
侮辱で損害賠償を請求期間は加害者を知ってから3年または投稿から20年
侮辱の損害賠償の期間は、民法第724条で「加害者を知った時から3年」または「投稿が投稿されてから20年」のどちらか早い方です。
「加害者を知った時」は、加害者を特定して住所や氏名を知っている状態を指します。つまり、犯人を特定した日から3年です。
次のような例を考えましょう。
加害者を知った日 | 侮辱とみなせる投稿が投稿された日 | 損害賠償請求の請求期限 | 備考 |
2018年12月20日
(3年後は2021年12月20日) |
2016年1月20日
(20年後は2036年1月20日) |
2021年12月20日 | 投稿日から20年よりも加害者を知った日から3年の方が早い |
2019年1月20日
(3年後は2022年1月20日) |
2000年2月20日
(20年後は2020年2月20日) |
2020年2月20日 | 加害者を知った日から3年よりも投稿日から20年の方が早い |
このように、侮辱罪の損害賠償請求の請求期限は「加害者を知った時から3年」か「投稿が投稿されてから20年」のどちらか早い方に成立します。
プライバシーの侵害の時効と損害賠償請求期限
プライバシーの侵害の時効は、結論から説明すると、「加害者を知ってから3年」または「プライバシーの侵害を含む投稿の投稿日から20年」です。
プライバシーの侵害の時効について、詳しく説明する前にプライバシーの侵害について、押さえていきましょう。
プライバシーの侵害の不法行為の1つ
プライバシーの侵害の考え方は、これまでに紹介した名誉毀損罪や侮辱罪とは若干異なります。
プライバシーの侵害は以下の民法第702条で定められている「不法行為」の1つです。
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文から不法行為は他人の権利を違法に侵害する行為であることがわかります。
つまり、プライバシーの侵害は他人のプライバシーの権利を不法に侵害することで発生するのです。
このプライバシーの権利は憲法第13条から導かれる権利であり、不法行為の「保護される利益」に該当します。
プライバシーの侵害の時効は「加害者を知ってから3年」または「投稿日から20年」
刑法でプライバシーの侵害を規定する条文は存在しないため、名誉毀損罪や侮辱罪のように刑罰を与えることができる期間を指す「公訴時効」は存在しません。
ただし、プライバシーの侵害は不法行為であるため、 不法行為の損害賠償請求が可能です。
つまり、プライバシーの侵害の時効はこの「不法行為の損害賠償請求権が消滅するまでの期間」となります。
不法行為の1つであるプライバシーの侵害では、 加害者を知ってから3年間、損害賠償の請求権を行使しないと権利が消滅してしまいます。
さらに、不法行為から20年経過した場合も同様に請求権が消滅してしまうのです。
加害者を知ってから3年、不法行為から20年のどちらか短い方の期間が時効となります。
つまり、プライバシーの侵害で損害賠償を請求できる期間は、「加害者を知った時から3年」または「投稿が投稿されてから20年」のどちらか早い方です。
「加害者を知った時」は、加害者の氏名や住所を知り、いつでも損害賠償請求ができる時点と考えられています。ゆえに、犯人を特定した時点から3年です。
次のような例を考えましょう。
加害者を知った日 | プライバシーの侵害を含む投稿が投稿された日 | 損害賠償請求の請求期限 | 備考 |
2018年7月20日
(3年後は2021年7月20日) |
2017年12月20日
(20年後は2039年年12月20日) |
2021年7月20日 | 投稿日から20年よりも加害者を知った日から3年の方が早い |
2018年12月20日
(3年後は2021年12月20日) |
2001年1月20日
(20年後は2021年1月20日) |
2021年1月20日 | 加害者を知った日から3年よりも投稿日から20年の方が早い |
このように、プライバシーの侵害による損害賠償請求の請求期限は「加害者を知った時から3年」または「誹謗中傷投稿が投稿されてから20年」のどちらか早い方に成立します。
まとめ
ネット誹謗中傷の時効について以下の表に整理します。
公訴時効(刑法) | 損害賠償請求ができる期間(民法) | |
名誉毀損 | 投稿から3年 | 「誹謗中傷の加害者を知った時から3年」または「誹謗中傷投稿が投稿されてから20年」のいずれか早い方 |
侮辱罪 | 投稿から1年 | |
プライバシーの侵害 | 刑法では裁けない |
このようにどの誹謗中傷の時効でも、年単位で時効が規定されていることが分かりますね。
また、誹謗中傷の損害賠償は民法で審議されるため、刑法での公訴時効の終了に関わらず、損害賠償請求可能です。
誹謗中傷の時効を知ったら、次は犯人に対して次は法的な手続きを行いましょう。
コメント