
生成AIの技術が急速に進化したことで、写真をもとに実在しない画像や動画を作り出す「ディープフェイク」は、もはや一部の技術者だけのものではなくなりました。無料のAIツールやアプリを使えば、SNSに公開されている顔写真からでも、本人が実際には行っていない行動や発言をしたかのような画像・動画を短時間で作成できてしまいます。
こうした被害は、芸能人や著名人だけでなく、一般人にも急速に広がっているのが現状です。「知らないうちに自分の顔がAI画像に使われていた」「本人の投稿かと思われるほど精巧な偽動画が拡散されている」といった相談が増加しており、名誉毀損やプライバシー侵害、精神的苦痛など深刻な二次被害につながるケースも少なくありません。
Googleも近年、自身の肖像を無断で使用したAI生成の性的なフェイク画像について、専用の削除申請手段を用意するなど対応を強化しています。
本記事では、ディープフェイク被害の実態から、顔写真を無断でAI加工された場合の法的な位置づけ、X・Instagram・TikTok・YouTubeへの具体的な削除申請方法、転載が残ってしまった場合の対応、Google検索結果からの削除方法まで、実務的な対処法を順を追って解説します。
AIディープフェイク被害とはどのようなものか

この章では、生成AIによって作られる「ディープフェイク」がどのような技術で、どのような経緯で一般人にまで被害が広がっているのかを整理します。ディープフェイクは芸能人や著名人だけの問題ではなく、SNSに顔写真を公開している誰もが被害者になりうるという点が、この記事全体を通じての重要なポイントです。まずは被害の実態と具体的な内容を把握しておきましょう。
生成AIによって作られる「偽の自分」の画像・動画の実態
ディープフェイクとは、AI(人工知能)の画像生成・音声合成技術を用いて作られた、実在の人物に酷似した偽の画像・動画・音声の総称です。もともとは映画やエンターテインメント分野の技術として研究されてきましたが、現在では誰でも使える無料・低価格のAIアプリやWebサービスが数多く登場し、専門知識がなくても数分程度で精巧な偽画像・偽動画を作成できるようになっています。
具体的には、SNSに投稿されている顔写真を数枚AIに読み込ませるだけで、本人が実際には着ていない服を着た画像や、本人が実際には行っていない行動をしているかのような動画、さらには本人の声を模倣した音声まで生成できてしまいます。中には、実在の発言を切り貼りするのではなく、一から本人が話してもいない内容を「言わせる」形で音声・映像を合成する悪質なケースも確認されています。
一般人にも広がるディープフェイク被害の背景
かつてディープフェイクは高性能なパソコンや専門的なプログラミング知識を必要とする技術でしたが、近年はスマートフォンのアプリひとつで同様の処理が可能になっています。この技術のハードルの低下が、被害が一般人にまで急速に広がっている大きな要因のひとつです。
また、SNSの普及によって、多くの人が自分の顔写真を日常的に公開しています。顔写真の入手が容易であること自体が、ディープフェイク被害のリスクを高めているとも言えます。特に、学校や職場の人間関係、あるいは元交際相手など、身近な人物によって悪意を持って作成・拡散されるケースも報告されており、「誰かに恨まれている」「トラブルになった」といった心当たりがある場合は注意が必要です。
ディープフェイクによって生じる具体的な被害
ディープフェイクによる被害は多岐にわたります。まず挙げられるのが、本人が実際には行っていない行動・発言をしたかのような誤解が周囲に広まることです。画像・動画の精度が高いほど、見た人が本物と信じ込んでしまい、事実と異なる印象がそのまま拡散されてしまいます。
さらに深刻なケースとして、本人の顔を性的な画像・動画に合成される被害が挙げられます。こうした画像がSNSやアダルトサイトに投稿・拡散されると、精神的苦痛はもちろん、勤務先や学校に知られてしまうことへの強い不安、交友関係や信用への悪影響など、実生活に及ぶ二次被害に発展することも珍しくありません。
加えて、ディープフェイクは一度拡散すると、本人による否定や訂正の発信よりも先に多くの人の目に触れてしまうという特性を持っています。「合成画像だ」と気づかれないまま転載が繰り返された場合、後から事実と異なると説明しても、最初に見た印象がなかなか払拭されないという二次的な問題も生じます。ビジネスアカウントや採用活動を行っている個人の場合は、取引先や採用担当者からの信用低下につながるおそれもあり、実生活・経済活動の両面に影響が及びかねません。
「AI 偽画像 削除」「ディープフェイク 被害」といった検索が増加している背景には、こうした被害の深刻化と、AI技術の進化によって偽物と本物の区別がますます難しくなっている現状があります。早期に気づき、次章以降で解説する法的な位置づけと具体的な削除手順を把握しておくことが、被害の拡大を防ぐうえで重要です。
顔写真を無断でAI加工された場合、削除を求められるのか

この章では、ディープフェイクに関わる法的な論点を整理します。顔写真を無断でAI加工された場合、肖像権侵害や名誉毀損、著作権侵害など複数の権利侵害が同時に問題となる可能性があります。どの権利が問題になっているかを把握しておくことは、削除申請や交渉を有利に進めるうえでの重要な手がかりになります。
肖像権・パブリシティ権の侵害にあたるケース
人は誰でも、自分の容貌や姿を無断で撮影・利用されない権利(肖像権)を持っているとされています。ディープフェイクは実在の写真そのものではなく、AIによって生成された「合成画像」ではありますが、本人と容易に識別できる特徴を用いて作成されている場合には、肖像権侵害が問題となる可能性が高いと考えられます。
特に、本人にとって不利益な文脈(性的な内容や、犯罪行為を連想させる内容など)でAI合成画像が使われている場合は、精神的苦痛の程度も大きくなりやすく、削除や損害賠償を求める根拠になり得ます。著名人の氏名・肖像が持つ経済的価値を無断利用する場合には、パブリシティ権の侵害が問題になることもあります。
名誉毀損・名誉感情の侵害が成立するケース
ディープフェイクによって、「不倫をしている」「犯罪行為をした」など、事実と異なる印象を与える画像・動画・説明文が付けられている場合は、名誉毀損に該当する可能性があります。名誉毀損は、公然と事実(または虚偽の事実)を摘示することで、対象者の社会的評価を低下させた場合に成立するとされています。
一方で、事実の摘示を伴わず、コメント欄などに「気持ち悪い」「性格が悪い」といった侮辱的な書き込みがされている場合は、名誉毀損ではなく侮辱(名誉感情の侵害)として扱われることになります。ディープフェイク画像そのものへの評価だけでなく、それに付随するコメントについても、あわせて記録・対応することが望ましいでしょう。
著作権侵害が問題になるケース(元画像の無断利用)
ディープフェイクの多くは、SNSなどに投稿された本人の顔写真を無断で学習・加工素材として利用して作成されています。この元となった顔写真自体に本人の著作権が発生している場合(自撮り写真など)、無断利用は著作権(複製権・翻案権など)の侵害にあたる可能性もあります。
ただし、ディープフェイク画像は元の写真から大きく加工・変形されていることが多く、著作権侵害が認められるかどうかはケースによって判断が分かれる部分でもあります。肖像権侵害や名誉毀損など複数の観点から主張できる根拠を整理しておくことが、削除申請を通しやすくするポイントになります。
また、実際に削除申請や法的手続きを進める際には、単に「AIで加工された画像である」と主張するだけでなく、「本人と容易に判別できる特徴が含まれている」「特定の個人を指していることが投稿の文脈からも読み取れる」といった具体的な根拠を示すことが重要です。プラットフォーム側の審査担当者やGoogleの担当窓口は、投稿内容だけを見て判断するため、被害者本人にしかわからない背景事情がある場合は、通報時の説明欄などで補足しておくと審査が通りやすくなる傾向があります。
SNS・動画プラットフォームへの削除申請の具体的手順

この章では、実際にディープフェイク画像・動画を削除してもらうための具体的な申請方法を解説します。X・Instagram・TikTok・YouTubeでは、それぞれ専用の通報フォームが用意されており、なりすまし・ハラスメント・知的財産権侵害などの理由ごとに申請ルートが異なります。申請の際は、該当投稿のURLやスクリーンショットなど、証拠を事前に保存しておくことが重要です。
X(旧Twitter)での通報・削除申請の流れ
Xでディープフェイク投稿を見つけた場合、まず該当ポストの右上にある「…」アイコンから「報告する」を選択します。「個人になりすましている」「ヌードや性的な行為を含む」「嫌がらせや誹謗中傷」など、内容に応じた選択肢が表示されるため、最も近い理由を選んで送信します。
Xには、同意のない性的な画像(いわゆる「同意のない裸体の画像等」)に関する専用のポリシーが設けられており、AIによって生成された性的なディープフェイク画像もこのポリシーの対象に含まれます。該当する場合は、通報時に本人であることや被写体である旨を申告する項目に沿って情報を入力しましょう。
Instagram・TikTokでの通報・削除申請の流れ
Instagramの場合、投稿右上の「…」メニューから「報告する」を選択し、「なりすまし」「ヌードやアダルトコンテンツ」「嫌がらせ・いじめ」などの理由を選んで通報します。ストーリーズやリールについても同様の手順で通報可能です。Meta社は、AIを利用して作成された性的な合成画像についても報告対象としているため、該当する場合は「不適切な画像」に関する報告フォームから詳細を送信します。
TikTokの場合も、該当動画を開き、共有アイコンから「報告」を選択すると、「個人になりすまし」「性的な内容」「いじめ・嫌がらせ」などの通報理由が表示されます。AI生成コンテンツであることが視聴者に伝わらない形で投稿されている場合は、「誤解を招くAIコンテンツ」に該当する可能性があるため、通報の際にその旨も補足すると審査が進みやすくなります。
YouTubeでの通報・削除申請の流れ
YouTubeでディープフェイク動画が投稿されている場合は、動画下部の「…」メニューから「報告」を選択し、「ヌードや性的なコンテンツ」「嫌がらせといじめ」「なりすまし」など該当する理由を選択します。
YouTubeでは近年、生成AIによって作られた、実在の人物の発言や外見を模倣したコンテンツに関するポリシーが整備されつつあり、本人からの申告に基づいて削除や年齢制限などの措置が取られる場合があります。通報だけで削除に至らない場合は、Googleの「プライバシーに関する苦情フォーム」から個別に申請する方法も選択肢のひとつです。申請の際は、該当動画のURL、被写体が本人である根拠、具体的な被害内容を明記することが求められます。
いずれのプラットフォームにおいても、通報を送信して終わりにするのではなく、審査結果が届くまでの間に証拠を追加で保全しておくことが大切です。審査の結果「規約違反が確認できない」として却下される場合もあるため、その際は、抽象的な説明にとどめず、いつ・どのような経緯で被害が生じているかをより具体的に記載して再申請することで、審査が通りやすくなるケースもあります。
元投稿が削除されても転載が残ってしまった場合の対応

この章では、ディープフェイク画像・動画そのものの削除にとどまらず、転載や拡散が続くアカウントへの対応、そして削除に至らない場合の法的手段について解説します。元の投稿を削除できても、拡散の過程で生まれた転載や派生コンテンツが残り続けることが多いため、複数の窓口に並行してアプローチする視点が欠かせません。
二次転載・まとめサイトへの個別対応
ディープフェイク画像・動画は、まとめサイトやアダルト系サイト、海外のSNSなど別のプラットフォームに二次転載されることで、さらに拡散範囲が広がってしまうことがあります。この場合、転載先のサイトごとに個別の削除依頼を行う必要があります。
まとめサイトについては、サイト内の「お問い合わせ」フォームやコンタクト先から直接削除を依頼する方法が基本になります。連絡先が見当たらない場合は、サイトを運営しているサーバー会社(ホスティング事業者)のWhois情報を調べ、そちらに削除依頼を送る方法も有効です。
拡散を続けるアカウントへの対応
ディープフェイクが拡散される過程では、特定のアカウントが繰り返し転載・投稿を行っているケースが目立ちます。まずは該当アカウントに対して、各プラットフォームの通報機能から「嫌がらせ」「なりすまし」などの理由で個別に通報を行います。
同一アカウントから繰り返し権利侵害の投稿が行われている場合、プラットフォーム側のポリシーによってはアカウント自体の凍結・停止措置が取られることもあります。通報の際は、個別の投稿だけでなく、該当アカウントの投稿履歴全体からわかる継続性についても言及すると効果的です。なお、ブロックやミュートだけでは、拡散アカウントを見ている第三者からの被害を防ぐことはできない点にも注意が必要です。
発信者情報開示請求という法的手段
プラットフォームへの通報だけでは削除に至らない場合や、投稿者を特定して責任を追及したい場合には、プロバイダ責任制限法(情報流通プラットフォーム対処法)に基づく発信者情報開示請求という法的手続きを検討することになります。この手続きでは、権利侵害の内容を具体的に示すことで、投稿者のIPアドレスや契約者情報の開示をプラットフォーム事業者やプロバイダに求めることができます。
開示された情報をもとに、損害賠償請求などの民事上の対応を検討することも可能です。ディープフェイクの作成・拡散は、悪質性が高いと判断されれば刑事上の責任(名誉毀損罪、侮辱罪など)が問題になることもあるため、被害の程度が大きい場合は、早い段階で公的な相談窓口や専門機関を活用することも有効です。
発信者情報開示請求は、証拠の収集から手続きの完了まで一定の時間を要する手続きです。そのため、削除申請と並行して手続きの準備を進めておくことで、いざ必要になった際にスムーズに対応できます。特に、プラットフォームによってはログの保存期間が限られている場合もあるため、被害に気づいた早い段階で証拠を保全しておくことが、後の手続きを有利に進めるうえで欠かせません。
Google検索結果からディープフェイクを削除する方法

該当画像・動画やそれに関する記事がプラットフォーム上から削除された後も、Googleの検索結果にはキャッシュやサムネイルとしてしばらく表示され続けることがあります。この章では、Google検索結果からディープフェイクコンテンツを削除するための具体的な方法と、被害の再発を防ぐための予防策を解説します。
Googleが用意する専用の削除申請フォーム
Googleは、自身の肖像を無断で使用して作成された性的なAI生成フェイク画像について、検索結果からの削除を申請できる専用の仕組みを用意しています。対象となるのは、実際の画像であるか捏造された画像であるかを問わず、ヌードや性的行為、親密な状況を描写したコンテンツで、本人が写っている(とされる)ものです。申請の際は、コンテンツが「実際の画像を無断で使用したもの」なのか、「本人の肖像を利用してAIで生成されたフェイク画像」なのかを選択する項目が用意されています。
なお、この専用フォームは性的・露骨な内容のディープフェイクを対象とするものであり、性的な内容を伴わないなりすまし画像や名誉毀損的なコンテンツについては、Googleが別途用意している「法的な削除リクエスト」や「個人情報の削除」に関する一般的な報告フォームから申請することになります。対象となる被害の内容によって申請ルートが異なるため、自分のケースがどの窓口に該当するのかを事前に整理してから申請することで、余計な手戻りを減らすことができます。
画像検索・関連ページからの削除申請の手順
申請を行う際は、まずGoogle画像検索の画像ビューア画面を開き、該当画像の右上にある「その他」メニューから「検索結果を削除」を選択します。その後、削除を希望する理由(性的なコンテンツである、個人情報が含まれている、など)を選択し、該当URL、被害の具体的な状況、本人確認のための情報を入力して送信します。
元のページ自体がすでに削除されている場合は、「古いコンテンツの削除」に関するリクエストから、検索結果のインデックス更新を申請することも可能です。申請から反映までには一定の時間がかかることがあるため、申請後もステータスを定期的に確認し、反映されない場合は追加情報を添えて再申請することが大切です。
検索結果対策と並行して、自身の名前や活動名で検索した際に、正確な情報を発信する公式アカウントや実績が上位に表示されるようにコンテンツを充実させることも、風評被害を長期的に緩和する手段として有効です。ディープフェイクに関する記事や転載ページが検索結果の上位から徐々に下がっていくことで、検索した第三者が誤った情報に触れる機会そのものを減らすことにもつながります。
被害を防ぐための予防策と継続的なモニタリング
ディープフェイク被害を完全に防ぐことは難しいものの、SNSに公開する顔写真の枚数や解像度を必要最小限に抑える、鍵付きアカウントを活用するといった基本的な対策は、被害のリスクを下げるうえで一定の効果があります。
また、エゴサーチ(自分の名前や活動名での検索)を定期的に行い、新たに作成・拡散されているディープフェイクコンテンツがないかを確認する習慣を持つことも重要です。Googleアラートなどのツールを使って自分の名前を継続的にモニタリングしておくと、被害の早期発見につながります。
さらに、一度削除に成功しても、同一のディープフェイク画像・動画が別のアカウントから再アップロードされる「いたちごっこ」の状態になることも珍しくありません。特に、生成AIを使えば同じ元画像から何度でも似た偽画像を作り直すことができてしまうため、継続的な監視体制を整えておくことが、被害の再燃を防ぐうえで重要な備えになります。
万が一、自分に関するディープフェイクが拡散されていることに気づいた場合は、まず該当画像・動画のURL、投稿日時、表示内容をスクリーンショットで記録することが最優先です。削除された後では証拠が残らなくなってしまうため、対応を始める前に必ず記録を残しておきましょう。その上で、(1)証拠の記録、(2)プラットフォームへの通報、(3)拡散アカウントへの対応、(4)転載先への削除依頼、(5)Google検索結果対策という流れを参考に、影響の大きいところから優先的に対応を進めていくことが、被害を最小限に抑えるための重要なポイントです。
被害が大きい、あるいは自分だけでの対応に限界を感じる場合は、早めに専門の相談窓口や専門機関を活用することも検討してください。ディープフェイクのトラブルは、放置すればするほど拡散範囲が広がりやすいという特徴があるため、「おかしいな」と感じた時点ですぐに記録を取り、複数の窓口に並行してアプローチする姿勢が、被害を最小限に抑えるための最も重要なポイントです。


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