インターネット上に公開された情報は、一度拡散されると完全に削除するのが難しく、将来にわたって残ってしまうことがあります。これは「デジタルタトゥー」と呼ばれ、就職や結婚、人間関係などに悪影響を及ぼす可能性があります。
デジタルタトゥーを完全に消去するのは難しいですが、投稿の削除依頼や検索結果の削除依頼など、いくつかの対策方法があります。
デジタルタトゥーを残さないためにできることはあるのでしょうか。今回の記事ではデジタルタトゥーについて解説していきます。
デジタルタトゥーとは?意味を紹介
デジタルタトゥーとは、インターネット上で公開された投稿や画像などが、一度拡散されるとほぼ永久に残り続け、完全に削除するのが難しいことを表す言葉です。肌に刻印する「入れ墨(タトゥー)」を完全に消すのが難しいのとよく似ていることに由来します。
自分にとって不利益な情報がずっと残り続けることに焦点が当たっており、インターネット社会におけるネガティブな側面を巧みに表現した言葉といえます。
デジタルフットプリントとの違い
フットプリント(footprint)は、足跡という意味の英単語です。デジタルフットプリントは文字通りデジタルな足跡のことで、インターネットにおける検索・閲覧などの活動により残された履歴を意味します。
- Webサイトの閲覧履歴
- SNSでの投稿やコメント、いいねの履歴
- オンラインストアでの購入履歴
など、あらゆる履歴を含むのがデジタルフットプリントです。
デジタルフットプリントの方は単に「履歴が残る」というだけで、デジタルタトゥーはデジタルフットプリントのうち、自己に不利益となりうる、かつ削除が困難な情報(履歴)のことを特に指します。
ストライサンド効果との関係
ストライサンド効果とは、インターネット上で情報を削除したり隠蔽したりしようとする行為がかえってその情報を拡散させてしまう現象をいいます。
「ストライサンド」というのは人の名前です。2003年にアメリカの歌手バーブラ・ストライサンドが自宅の航空写真の公開を差し止めようと訴訟を起こした事件からきています。彼女の行為はかえって世間の関心を集め、結果的に多くの写真がインターネット上で拡散されました。
この事件のように、デジタルタトゥーも、削除しようとしてもかえって拡散してしまう可能性があります。デジタルタトゥーを完全に削除するのが難しいのは、このストライサンド効果にも一因があるのです。
デジタルタトゥーの種類や事例
デジタルタトゥーの種類はさまざまですが、以下では4つの類型を紹介します。
誹謗中傷・デマ
誹謗中傷やデマは、発信する側とされる側、どちらにとっても不利益となりうるものです。
発信される側の不利益
掲示板やSNSで悪口を書かれたり、根も葉もないうわさを流されたりすれば、それが真実か否かに関係なく被害者の社会的評価が下がる可能性があります。
そのようなデジタルタトゥーが残ってしまうと、社会的評価の低下はもちろんのこと、本人にとっても忘れたくても忘れることができないなど、将来にわたって精神的苦痛を負い続けることになるかもしれません。
発信する側の不利益
誹謗中傷やデマを発信する側にとっても、そのような発信をしたという事実がデジタルタトゥーとなりえます。誹謗中傷するような人として人格を疑われたり、デマを流すような人として信用を失ったりする可能性があるでしょう。
自らした投稿であれば削除すれば問題ないと思うかもしれません。しかし、批判を受けたり炎上したりすれば、炎上案件としてやり取りのまとめが上がったり、スクリーンショットを撮られてアップされたりすることで、デジタルタトゥーとなる可能性があるのです。
事例
実際の事例として、2018年3月31日に行われたプロ野球の中日対広島戦で、中日ファンが「原爆落ちろ、カープ!」と野次を飛ばした事件を紹介します。この事件では野次を飛ばしたファンの個人情報の特定には至らず、また、本人も反省の弁を述べたようです。しかし、報道記事、実際の野次の様子が収められた動画、本人のTwitterのスクリーンショットなどはインターネット上に残されたままです。
悪ふざけ・いたずら
近年、悪ふざけやいたずらが、「バカッター」や「バイトテロ」などと呼ばれる形でデジタルタトゥー化しているケースが多くみられます。これらの行為は人々に強い嫌悪感や不信感を抱かせたり、企業のブランドイメージを著しく下げたりするものとして激しく非難されます。場合によっては民事責任や刑事責任を追及されることもあります。
バカッターとは?
バカッターとは、他者の注目を集め承認欲求を満たすために、悪ふざけやいたずら、ひいては犯罪行為などを撮影した写真や動画をアップするTwitter(現:X)の投稿のことです。バカとTwitterを組み合わせた造語です。
2013年にはネット流行語大賞で4位にランクインしており、現代社会を風刺する言葉として広く浸透しています。そのため、投稿する媒体がTwitter(X)以外の場合にもバカッターという言葉が使われることがあります。
バイトテロとは?
バイトテロとは、アルバイトの従業員による勤務時間中の不適切な行為、およびそれを撮影した写真や動画を投稿して炎上することをいいます。アルバイト版バカッターともいえます。
飲食店舗における食材の不適切な扱い、不衛生な行為などがバイトテロの代表例です。
事例
以下、実際に発生したバカッター・バイトテロの事例を複数挙げます。
【バカッターの事例】
- コンビニで販売しているおでんを指でツンツンする
- 回転寿司店で備品を舐めたり、回っている寿司を唾液のついた指で触ったりする
- 鉄道の線路内に立ち入る
- アミューズメント施設内にミニバイクで乗り込む
- 宿泊施設の備品を破壊する
【バイトテロの事例】
- 鼻の穴に入れた指でピザ生地に触る
- ゴミ箱に入れた魚をまな板に乗せる
- 食材が入っている冷蔵庫に人が入る
- 下半身を露出し配膳用のお盆を当てる
- 来店した有名人のプライバシーをTwitterで公開する
個人情報
氏名、生年月日、住所など、個人の特定につながる情報は、誰しもむやみに知られたくないでしょう。また、電話番号やメールアドレスなども悪用される可能性があり、保護に値する情報です。これらの情報がデジタルタトゥーとして残り続けてしまうと、大きな不利益を被るおそれがあります。
逮捕や不祥事などで報道されたケース
犯罪行為で逮捕されたり、不祥事や迷惑行為で報道されたりすると、氏名や年齢などがニュース記事として残ることになるでしょう。報道されていなくても、迷惑行為がSNSなどで炎上すれば、氏名や住所などを特定され、公開されてしまうおそれもあります。
SNSの投稿などから個人情報を特定されるケース
上記のような極端なケースでなくとも、SNSなどで軽い気持ちで発信した内容から個人情報を特定されてしまう可能性があります。
SNSでは位置情報とともに投稿できる機能があります。位置情報をオンにしていれば、住んでいる地域や行動範囲を推知される可能性があるでしょう。位置情報をオフにしていても、画像や動画の内容によってはプライベートを推知されてしまうかもしれません。
例えば、大学の構内で撮影した写真をSNSにアップすれば、通っている大学を(場合によっては学部やサークルなども)特定される可能性があるでしょう。別の投稿で年齢がわかる情報を発信していれば学年も特定されるかもしれません。出身地や出身校などがわかる投稿があればさらに絞り込まれるでしょう。
このように、具体的な情報が多ければ多いほど個人情報を特定される可能性が高まります。
直接的に個人情報を公開していなくても、些細な情報が複数組み合わさることで個人情報を特定されるかもしれないのです。
インターネット上で発信する際には、直接的な個人情報はもちろんのこと、個人情報を含まない投稿であっても、個人情報が推知される可能性を考慮して慎重に判断しましょう。
リベンジポルノ
リベンジポルノとは、元交際相手や元配偶者の性的な写真・動画などを、インターネット上で不特定多数の人に公開する嫌がらせのことをいいます。リベンジが「復讐」という意味であることから、相手との関係がこじれたときなどの報復の手段として用いられることがあります。
近年、カメラ付きスマートフォンの普及や性能の向上により、個人でも高品質な写真や動画を手軽に撮影できるようになりました。また、写真や動画をインターネット上に公開するのも個人で簡単にできる時代です。性的な内容を撮影することは、たとえ私的に楽しむだけのつもりだったとしても、リベンジポルノのリスクを高めます。
中には相手に嫌われたくないなどの理由により撮影に応じてしまうケースもあるようです。しかし、将来的にリベンジポルノとして公開されるリスクを考えると、勇気を出して断るべきでしょう。
デジタルタトゥーを放置するとどうなる?リスクについて
デジタルタトゥーが残っていると、長期にわたり不利益を被ることが想定されます。どのような不利益・リスクがあるのかをしっかりと把握しておくことが重要です。
就職や結婚の妨げになる
近年の就職活動においては、企業が求職者の情報をインターネットで確認することも珍しくありません。実名検索などでデジタルタトゥーを発見されてしまうと、企業が採用を見送る可能性が高くなり、内定をもらうのが難しくなります。
結婚についても、相手や相手の親族がデジタルタトゥーを発見してしまった場合、関係の悪化が想定されます。結婚前であれば婚約破棄の可能性がありますし、結婚後であっても夫婦仲や親族関係にひびが入るかもしれません。
犯罪被害に遭う
デジタルタトゥーは個人情報を特定されるリスクをはらむものです。氏名や住所などの個人情報を見知らぬ誰かに特定されてしまうと、以下のような嫌がらせや犯罪の被害に遭うおそれがあります。
- ストーカー
- 暴行
- 脅迫
- 器物損壊
- なりすまし(アカウントの乗っ取り)
- フィッシング詐欺
身バレ、特定により、本人だけでなく家族にまで被害が及ぶ
デジタルタトゥーは、無関係な家族の生活にも悪影響を及ぼしうるものです。
本人とその家族は、身内とはいえ別の人間です。本人が悪事を働いたり炎上したりしたからといって、ただちに本人の家族の人間性にも問題があることにはなりません。しかし、現実問題として、インターネットで炎上するほどのことをした人が身内にいるというだけで周囲の人達からの評価が下がってしまう可能性は否定できません。
親しかった人から距離を置かれる、いじめに遭う、犯罪の被害を受けるといった不利益を、何も悪いことをしていない家族までもが被るおそれがあるのです。
デジタルタトゥーの消し方(削除方法)をわかりやすく解説
デジタルタトゥーは、言葉の意味の通り削除するのは困難ですが、全く何もできないわけではありません。
投稿(記事)の削除依頼
まず、サイトの問い合わせフォームやSNSのDMなどから、投稿者や記事作成者に直接連絡し、削除を依頼することが考えられます。
しかし、相手に削除に応じる義務はありませんし、相手に悪意がある場合には火に油を注ぐことにもなりかねません。依頼すれば削除してもらえるだろうと期待はしない方がよいでしょう。
場合によっては弁護士に相談し、弁護士から依頼してもらうことで、削除に応じてもらえる可能性は高まるかもしれません。
もっとも、弁護士にお願いするには相応の費用がかかりますし、時間もかかることが想定されます。決して簡単にとれる手段ではありません。
検索結果の削除依頼
次に、Googleなどの検索エンジンに検索結果の削除を依頼することが考えられます。以下、Googleへの依頼方法を2つ紹介します。
※いずれの方法についても最終的な判断はGoogleに委ねられます。必ずしも削除されるとは限りません。
Google検索から個人的なコンテンツを削除するようリクエストする
Google検索のコンテンツとサービスのポリシーに違反するコンテンツについては、以下のフォームから削除を依頼することができます。
Google「Google 検索から個人的なコンテンツを削除するようリクエストする」
個人情報や性的な内容などが含まれていれば、ポリシーに違反するものとして削除してもらえる可能性があります。
法的な理由でコンテンツを報告する
コンテンツの内容が名誉毀損などの権利侵害に当たりうる場合には、違法性のあるコンテンツとして報告することにより、削除してもらえる可能性があります。報告は、以下のフォームから行うことができます。
報告に当たっては、権利侵害の事実を示す客観的な証拠や、法的根拠(適用される法律やその条文)とともに説明するのが望ましいでしょう。
検索結果からの除外(逆SEO)
逆SEOとは、ポジティブなコンテンツを上位表示させることで、上位表示させたくないネガティブなコンテンツの順位を押し下げることをいいます。
ポジティブかつ高品質なコンテンツの作成・発信が必要となるため、SEO(検索エンジン最適化)の知識が必要です。
インターネット上のネガティブコンテンツへの対策を専門にする業者も数多くあるので、相談してみるのもよいでしょう。
デジタルタトゥーの対策方法は?
デジタルタトゥーの一番の対策は、デジタルタトゥーを残さないこと。そのためには、ネットリテラシーを正しく身につけることが重要です。以下、5つのポイントを紹介します。
インターネットに個人情報を公開しない
個人情報を不特定多数に知られてしまうと、悪用されたり、個人を特定されて嫌がらせを受けたりなどのリスクに晒されます。直接的な個人情報を公開しないのはもちろんのこと、個人情報につながるかもしれない情報も公開すべきではありません。
インターネットで発信する際には、自分の個人情報が流出するリスクを常に意識しておきましょう。
感情に流されず、過激な発言をしない
不愉快な気分の時やイライラを感じた時など、過激なことを言いたくなることもあるかもしれません。ですが、インターネット上では決して言わないようにしましょう。
過激な発言は、ほぼ間違いなく誰かを不快にさせますし、多くの場合、発言者の評価も下がります。最悪の場合、炎上に発展することも。
一時の感情に流されることなく、画面の向こう側にいる人のことを想像して、節度のある発言を心がけましょう。
不適切な写真・動画を絶対に投稿しない
不適切な写真や動画はデジタルタトゥーと密接な関係があります。前述したバカッターやバイトテロなど、不適切な写真や動画がデジタルタトゥーとなるケースが後を絶ちません。
不適切な写真・動画は高確率で大きく炎上します。一時のノリと勢いで一生の汚点を残してしまわないためにも、不適切な写真・動画は絶対に投稿しないようにしましょう。
アカウントなどのセキュリティを強化する
個人情報につながる可能性のある投稿は原則控えるべきですが、時にはSNSなどでプライベートな発信を楽しみたいこともあるでしょう。そんなときは、アカウントの公開範囲を制限するなどして、不特定多数に情報が流出しないようにしましょう。
また、アカウント乗っ取りのリスクにも気をつける必要があります。アカウントを乗っ取られると、登録している個人情報を入手されたり、不適切な投稿を勝手にされたりするかもしれません。
そうならないためにも、
- 2段階認証の利用
- 強力なパスワードの設定
- パスワードの使い回しを避ける
- フリーWi-Fiの使用は控える
などの対策を講じましょう。
一度インターネットに公開した情報は消えないと心得て慎重に利用する
インターネットで公開した情報を消せるかどうかはケースバイケースですが、基本的には消せないと思っておくべきです。投稿を削除したとしても、スクリーンショットを撮影・投稿されていたり、アーカイブサイトなどに転載されていたりする可能性があります。
つまり、情報を公開するということはその情報のコントロールを自分以外の多くの人にも与えてしまうに等しいのです。自分に関する情報であっても、他人がコントロールするものについては正当な理由がない限り制限することはできません。
以上を踏まえた上で、どこまでの情報を公開すべきか、あるいは公開すべきでないかを慎重に判断する必要があります。
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