Twitter(現X)で誹謗中傷が多い背景として以下のような点があります。
- 短文投稿の文化がある
- 匿名性が高い
- 攻撃的、扇動的な内容がエンゲージメントを獲得しやすい
- 政治的議論が活発に行われている
今回はその詳細とTwitterでの誹謗中傷の対策について解説していきます。
Twitterで誹謗中傷が投稿されやすい?その理由は
まず、Twitterで誹謗中傷が投稿されやすい理由を、4つの側面から解説します。
短文投稿の文化がある
Twitterには全角換算で140文字という字数制限(※)があるため、投稿内容は簡潔にならざるをえません。
論理を組み立てたり、文脈を踏まえた発言をしたりするにはやや不向きなツールです。
ツイートをつなげるという方法はありますが、それでも個々のツイートごとに発言が切り取られやすくなってしまいます。
そのため、投稿内容が誤解を招いたり、誰かを傷つけたりする可能性が高くなるのです。
※有料プランに加入すれば、字数制限が最大25,000文字と大きく緩和されます。
匿名性が高い
匿名文化であることも、誹謗中傷が生まれやすい一因です。
実名だと、インターネット上の発言が現実の生活に影響する可能性が高くなります。自分の評価を下げるような発言がデジタルタトゥーとなって残り続ければ、将来にわたって不利益を負い続けることにもなりかねません。
そのため、発言に責任を持ち、慎重になりやすくなります。
一方、匿名は個人の特定に繋がりにくいため、インターネット上の発言が現実の生活に影響する可能性はほとんどありません。アカウントを作り直すなどして人格を変えることも容易です。そのため、無責任な発言や過激な発言につながりやすいのです。
攻撃的、扇動的な内容がエンゲージメントを獲得しやすい
Twitterでは、攻撃的な内容や扇動的な内容のコンテンツがエンゲージメント(いいねやリツイートなど)を獲得しやすい傾向があります。
「炎上商法」という言葉もあるように、あえて過激な表現を使う方が、多くの人の目を引くのに効果的なこともあるのです。
政治的議論が活発に行われている
「政治・宗教・野球の話はするな」などと言われるように、政治は激しい意見の対立を生みやすいトピックの1つです。
Twitterでは、政治に関する意見の発信や議論が日々活発に行われており、感情的な発言や暴言が飛び交いやすい環境となっています。
Twitterでも誹謗中傷が禁止されている
Twitterの誹謗中傷を削除する方法の1つは、Twitterの運営に通報することです(詳しくは後述します)が、前提として、誹謗中傷の投稿が規約に違反していることが必要となります。
Twitterは、すべてのユーザーが安心して自由に意見を表現できる環境を目指し、以下のような行為を禁止しています。
- 特定個人への嫌がらせまたは嫌がらせを扇動すること
- 侮辱的発言
- 名誉毀損
- ヘイト行為またはヘイト行為を扇動すること
※ヘイト行為とは、人種・民族・宗教・性別・性的指向などを理由とする攻撃的・差別的な言動をいいます。
詳細は、以下のURLをご確認ください。
https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/abusive-behavior
https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/hateful-conduct-policy
Twitterで誹謗中傷を削除する方法
以下、3つの方法を紹介します。
誹謗中傷を通報する
初めに考えられるのは、Twitterの運営に通報することです。通報には、
- ツイートを報告
- アカウントを報告
- ダイレクトメッセージ(DM)の会話を報告
の3つの方法があります。いずれの場合にも、「…」(3点リーダー)のアイコンが目印です。
通報のあったツイート、アカウント、DMが規約に違反していると認められれば、運営は、当該アカウントに対し警告をしたり、ひどい場合にはアカウントを永久凍結したりすることもあります。
ただし、規約違反の認定や、投稿者に対する措置の内容については、運営の判断に委ねられます。必ずしも望み通りの結果になるとは限りません。
また、アカウントの永久凍結がされたとしても、同じ人が別のアカウントを作成することまでは制限されないという点にも注意が必要です。
送信防止措置依頼書をTwitterに送る
送信防止措置とは、インターネット上で自己の権利を侵害されたとする者の申出により、電気通信を提供する者が当該権利侵害情報の送信を防止する措置のことです(プロバイダ責任制限法3条2項2号)。
Twitterは電気通信を提供する者に当たるため、ユーザーの依頼に基づき送信防止措置を講じることができます。Twitterが送信防止措置を講じれば、誹謗中傷のツイートやアカウントは表示されなくなります。
前述したTwitterの運営への通報は、あくまでTwitterのポリシーに基づいた、Twitter内部でのみ完結する手続きです。一方で、送信防止措置は法律に基づく手続きのため、通報よりも高い効果が見込めます。
法律に基づく手続きには、法律に定められた要件を満たす必要があります。送信防止措置の申出に当たっては、以下の3点を示さなければなりません。
- 侵害情報(誹謗中傷のツイート)
- 侵害されたとする権利
- 権利が侵害されたとする理由
削除の仮処分命令
仮処分とは、正式裁判の前に、裁判に勝訴したときと同様の状態を確保することができる手続きのことです。
削除の仮処分は、通常の民事訴訟の手続きよりも簡易迅速な上に、投稿を削除させる上で強力な効果を持ちます。実際、削除の仮処分命令が出されると、ほとんどのケースで投稿者は削除に応じます。
仮処分であっても、裁判所という国家権力を動かすことには変わりありません。それなりの時間や費用がかかることは想定しておきましょう。
Twitterの誹謗中傷は警察に相談できる?
Twitterの誹謗中傷は警察に相談することもできます。
しかし、民事事件か刑事事件かによって、警察の対応は全く異なります。
民事事件の場合
民事事件、すなわち不法行為に基づく損害賠償請求を検討する場合には、警察は全く力になってくれません。キーワードは「民事不介入」です。
警察の責務は「公共の安全と秩序の維持」(警察法2条1項)であって、私人間の争いごとを解決することではありません。私人間の争いごとについては、頼るべきは警察ではなく裁判所です。
そのため、警察は基本的に私人間の争いごとには干渉しないというスタンスをとっています。
【警察法2条1項】
(警察の責務)
第2条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。
刑事事件の場合
私人間の争いごとには干渉しないといっても、犯罪に当たる場合は話が別です。「犯罪の予防、鎮圧及び捜査」こそが警察の責務だからです(前掲警察法2条1項)。
警察は、告訴を受理し、書類や証拠を検察官に送付しなければならないなど、告訴に対し真摯に対応する義務を負っています(刑事訴訟法242条、犯罪捜査規範63条、67条など)。告訴を受ければ警察は一定の対応をしてくれます。
もっとも、犯罪の捜査や事件の解決にはそれなりの時間がかかりますし、警察は他にもさまざまな捜査活動に当たっています。迅速な処理や即効性などを期待するのは難しいでしょう。
Twitterで誹謗中傷してきた相手を特定する方法
発信者情報開示請求(プロバイダ責任制限法5条)により、Twitterで誹謗中傷してきた相手を特定することができます。
手続きの流れを簡単に説明すると以下の通りとなります。
- Twitterに対し発信者情報(IPアドレスなど)開示請求依頼書を送付する
- 裁判所に対し、発信者情報開示仮処分を申し立てる(※①への応答がない場合)
- 開示されたIPアドレスなどをもとに、プロバイダ(電気通信事業者)に対し、発信者情報(氏名・住所など)開示請求訴訟を提起する
発信者情報開示請求の要件は以下の2つです。
- 権利を侵害されたことが明らかであること(微妙なケースは×)
- 開示を受けるべき正当な理由があること(損害賠償請求のためであれば正当な理由といえるでしょう)
なお、長期間放置すると、Twitterが保有するログが消えてしまう可能性があります。開示請求はできるだけ早く(できれば投稿から3か月以内に)行うようにしましょう。
Twitterで誹謗中傷してきた相手を刑事告訴
Twitterの誹謗中傷は、以下のような刑法上の犯罪に当たりうる行為です。刑事告訴は、捜査機関(主に警察)に対し、誹謗中傷してきた相手への処罰を求める意思表示となります。
脅迫罪
脅迫罪は、刑法222条に規定があります。
(脅迫)
第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
「脅迫」とは、一般人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいいます。本人が畏怖しなかったとしても、一般人からみて怖いと感じるものであれば「脅迫」に当たります。
- 殺すぞ(生命)
- ボコボコにしてやる(身体)
- 外を出歩けると思うなよ(自由)
- 秘密をばらすぞ(名誉)
- ぶっ壊してやる(財産)
などの言動が「脅迫」に当たりえます。
害悪を加える対象は、本人または本人の親族です。友人や恋人は含まれません。法人(会社など)も対象外です。動物は、刑法上は物(財産)として扱われるので、ペットに対する加害をにおわせる言動は「脅迫」となりえます。
名誉毀損罪
名誉毀損罪についての刑法上の規定は以下の通りです。
(名誉毀損)
第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
公然と
「公然と」とは、不特定または多数の者が認識できる状態をいいます。
Twitterのタイムラインは公開されている限り誰でも見られるので、そこでなされた誹謗中傷は「公然と」されたものといえます。非公開の場合でも、フォロワーが複数人いるなど、不特定または多数に当たるといえれば公然性が認められるでしょう。
事実を摘示
次に「事実」とは、その存否を証拠などにより客観的に判断できる事柄のことです。「事実」は「存在する」か「存在しないか」のどちらかしかありえず、個人の主観で結論が左右されることはありません。
【具体例】
- 前科がある
- 不倫している
- 解雇された
- 反社会的勢力とつながりがある
たとえば「前科がある」というのは、過去に刑事裁判で有罪判決を受けた記録があるかどうかを調べれば、実際に「前科がある」かどうかを客観的に確認することができます。このような事柄が名誉毀損罪の「事実」です。
「事実の有無にかかわらず」とあるように、実際には前科がなかったとしても、「○○は前科持ち」などとTwitterに投稿すれば、名誉毀損罪に当たる可能性があります。
名誉を毀損
「名誉を毀損」とは、社会的評価を下げることを意味します。社会的評価は抽象的なものであり、実際に下がったかどうかの判定は容易ではありません。
もっとも、名誉毀損罪は、実際に社会的評価が低下しなくとも、社会的評価が低下しうる抽象的な危険があれば成立するものとされています(抽象的危険犯)。
真実性の証明による違法性阻却
名誉毀損は個人の社会的評価を下げる行為です。もっとも、政治家の不正や企業の不祥事を暴露する行為のように、個人の社会的評価よりも社会全体の利益を優先すべき場合もあるでしょう。
そこで、刑法230条の2は、一定の場合に名誉毀損行為の違法性が否定されることを認めています。
(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の2 前条(230条)第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
つまり、
- ①公共の利害に関係する(公共性)
- ②専ら公益を図る目的がある(公益性)
- ③真実性の証明がある(真実性)
という3要件を満たせば、名誉毀損罪は成立しないということです。
※③については、真実性が証明されなくても、真実であると信じたことについて相当の理由があればよいとされています。
侮辱罪
侮辱罪については、刑法231条に規定されています。
(侮辱)
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
名誉毀損罪との違いは「事実の摘示があるか否か」です。
たとえば「中卒」というのは、実際にその人の最終学歴が中卒か否かのどちらかしかありえず、客観的に確認できる事柄なので「事実」に当たります。
一方「頭が悪い」というのは、評価する人の価値判断によって見解が分かれる事柄であり、客観的に定まるものではありません。つまり、「頭が悪い」は「事実」ではないのです。
このように「事実」でない表現を用いて人の社会的評価を下げれば、侮辱罪に当たる可能性があります。
信用毀損罪・偽計業務妨害罪
信用毀損罪と偽計業務妨害罪は、まとめて刑法233条に規定されています。
(信用毀損及び業務妨害)
第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
つまり、
- 虚偽の風説を流布する(真実でない情報を世間に広めること)
- 偽計を用いる(平たく言えば騙すこと)
といういずれかの行為によって、
- 人の信用を毀損すれば信用毀損罪
- 業務を妨害すれば偽計業務妨害罪
となります。
※名誉毀損罪とは異なり、風説の内容が虚偽である(=事実が存在しない)ことが絶対条件です。
「信用」とは、人の社会的評価のうち、特に経済的側面に関するものを指します。支払能力はもちろんのこと、商品の品質に関する評価なども「信用」に含まれます。
「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務のことです。
被害届を出すだけでは告訴とはならない
告訴は、捜査機関に対して犯罪事実を申告するとともに、犯人の処罰を求める意思を表示するものです。一方、被害届は、捜査機関に対し犯罪事実を申告するものにすぎず、犯人の処罰を求める意思表示は含まれないものとされています。
告訴の際には、告訴であること(=犯人に対する処罰を求めること)を明確にしましょう。
告訴期間の制限や公訴時効に注意
名誉毀損罪・侮辱罪については告訴期間の制限に、脅迫罪・信用毀損罪・偽計業務妨害罪については公訴時効の成立に注意が必要です。
親告罪の告訴期間は6か月以内
親告罪とは、告訴がなければ検察官が起訴することができない犯罪のことです。親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります。
【刑法232条1項】
(親告罪)
第232条 この章の罪(名誉毀損罪および侮辱罪)は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
【刑事訴訟法235条】
第235条 親告罪の告訴は、犯人を知った日から6箇月を経過したときは、これをすることができない。・・・(以下略)
ここで「犯人を知った」とは、犯人が誰であるかを特定しうる程度に認識することとされていますが、犯人の氏名や住所などの詳細情報までは知らなくてもよいとされています(最決昭和39年11月10日刑集18巻9号547頁)。捜査機関が誰を対象に捜査すべきかを特定できる程度の認識が必要だといえるでしょう。
また、「犯人を知った日」は、その犯罪が終了した日以降でなければならず、犯罪の継続中に犯人を認識した場合には、犯罪が終了した日が告訴期間の起算日となるとされています(最決昭和45年12月17日刑集24巻13号1765頁)。
インターネット上の名誉毀損については、当該投稿がインターネット上に残っている間は名誉毀損の抽象的危険が維持されているため、犯罪は継続しているとの判断をした裁判例があります(大阪高裁平成16年4月22日判決)。この見解に従えば、投稿が削除された時点で犯罪が終了することとなります。なお、この事件では投稿者が投稿の削除権限を失っていたため、削除を依頼した時点で犯罪が終了したものと認定されました。
公訴時効
脅迫罪・信用毀損罪・偽計業務妨害罪は親告罪でないため、告訴期間の制限はありませんが、公訴時効には注意が必要です。
【刑事訴訟法250条2項6号】
第250条
2 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
【刑事訴訟法253条1項】
第253条 時効は、犯罪行為が終った時から進行する。
前掲した刑法の規定によれば
- 脅迫罪:長期2年の懲役
- 信用毀損罪および偽計業務妨害罪:長期3年の懲役
に当たるものとなるため、3年の公訴時効にかかります。
時効の起算点(「犯罪行為が終った時」)については、前掲大阪高裁判決に従えば、誹謗中傷の投稿が削除された時、または削除に必要な行為を終えた時からとなるでしょう。
Twitterで誹謗中傷してきた相手に損害賠償請求
誹謗中傷については、刑事責任だけでなく民事責任を追及する余地もあります。
不法行為に基づく損害賠償請求
民事責任を追及する方法としては、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。根拠規定は民法709条です。
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文から導かれる不法行為の成立要件は次の4つです。
- ①故意(=わざと)または 過失(=不注意)
- ②権利利益の侵害
- ③損害
- ④因果関係(②と③との結びつき)
誹謗中傷がこれら4つの要件を満たすことについては、被害者自らが主張立証しなければなりません。
①についてはあまり問題とならないでしょう。嫌がらせ目的であれば故意、軽い気持ちで投稿したものについても、少なくとも過失は認められます。
②については、社会的評価や名誉感情、プライバシーなどに対する侵害を主張することが考えられます。これらの権利利益は、憲法13条(個人の尊重)から導かれる「人格権」に含まれるものとして法的に保護されます。
③については、誹謗中傷の場合、基本的に精神的損害(精神的苦痛)を被ったことを主張することになるでしょう。
以下、②の権利利益の内容に着目して、2種類の不法行為を紹介します。
名誉毀損・侮辱
名誉毀損や侮辱については、前述した名誉毀損罪や侮辱罪に該当する行為が、民法上の不法行為ともなりえます。
ただし、民事と刑事では以下のような違いがあります。
【被侵害利益】
- 民事:名誉毀損は社会的評価。侮辱は名誉感情。
- 刑事:社会的評価のみ。名誉感情は含まれない(通説)。
【行為態様】
- 民事:事実の摘示のみならず、意見論評でも名誉毀損となりうる。
- 刑事:事実の摘示があれば名誉毀損。なければ侮辱。
※意見論評については主観的価値判断を含む点で侮辱と類似しています。
【主張立証責任】
- 民事:被害者自ら
- 刑事:検察官
※主張立証責任とは、不法行為や犯罪の要件を満たすことを誰が積極的に示すべきかという問題です。主張立証に失敗すれば不法行為や犯罪は成立しません。
これらの違いがあるため、刑事責任が認められれば当然に民事責任も認められるわけではない(逆も同じです)ことは理解しておきましょう。
なお、名誉毀損罪については、真実性の立証により違法性が否定されることが刑法230条の2に規定されていると前述しました。この法理は民事の名誉毀損においても妥当することが判例で認められています(最大判昭和41年6月23日民集20巻5号1118頁、最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁)。
プライバシー侵害
プライバシーとは、個人の秘密や私生活に関する情報を、みだりに他者に知られることのない権利をいいます。
プライバシー侵害の成立要件
プライバシー侵害の成立要件については、いわゆる「宴のあと」事件判決(東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号2317頁)で示された3要件が参考になります。
- ①私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある
- ②一般人の感受性を基準にすると公開して欲しくないだろうと考えられる
- ③一般の人に公開されていない
以上を満たせば、名誉毀損や侮辱には当たらなくとも、プライバシーの侵害に当たるとして不法行為が成立する可能性があります。
プライバシー侵害に該当しうるケース
①個人情報を晒す(住所・本名・顔写真・職場・電話番号など)
これらは、個人の特定につながったり、悪用されたりするおそれのある情報です。このような情報を勝手に晒す行為は、プライバシー侵害となる可能性が極めて高いです。
②個人の秘密を晒す(健康状態・経済力・前科前歴・交際歴・性的指向など)
これらの情報も極めて個人的なもので、社会的評価や信用にも関わりうるため、一般的にはみだりに公開されたくない情報といえます。 特に前科前歴など、社会的評価に重大な影響が生じうる情報を公開することは、名誉毀損の問題にもなりうるでしょう。
③DMなどのやり取りを晒す
- 個人情報や秘密などが記載されている
- 本人にとって公開されたくない言動・やり取りが記載されている
DMなどのメッセージツールは、タイムラインとは異なり、公開を前提としていない個人的なやり取りです。もっとも、スクリーンショットを撮ることで、画像として簡単に投稿できてしまいます。
DMには、公開を前提としていないからこその情報や発言が含まれうるでしょう。それを勝手に公開すればプライバシー侵害となりえます。
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