この記事ではSNSなりすましの違法性について解説しています。
SNS上で受けた悪質ななりすまし行為は「法的にどうなの?」と憤りを感じているかと思います。
そこで今回解説するのが「なりすまし行為の違法性」です。
結論から言えば「なりすまし」は違法性が高い行為です。つまり、警察や弁護士に相談できるということです。
今回は「法律・犯罪」「事例」などを詳しく紹介し、「なぜ違法なのか」という観点からなりすましの事例を分析していきます。
SNS上のなりすましは法律違反!その「罪」とは
SNSなどネット上でのなりすまし行為自体を直接禁止する法律は今のところありません。
そのため、なりすまし行為を違法と裁くには、なりすまし犯がしている行為に注目する必要があります。
なりすまし犯の「どの行為が迷惑なのか」もう一度考えながら、読み進めてみてくださいね。
なりすましで周囲に誤解「名誉毀損罪」
「名誉毀損(きそん)罪」とは、他人の名誉を損なう行動・発言をした者に科せられる罪です。
この「名誉」とは、社会的評価・評判・地位・名声・印象などの人格的な価値を指します。それを損なう行為(毀損)が名誉毀損罪に該当します。
なりすましの例でいえば以下のような例が考えられます。
- なりすまし犯がSNS上で暴言や性的な写真を投稿するなど、なりすました相手(みなさん)の印象を損なう投稿を繰り返している
- なりすまし犯がSNS上でなりすました相手(みなさん)を知る人に誤解を与えるような発言をして、評判を落としている
このように不特定多数への「誤解」を与え、なりすました相手の名誉を傷つければ、名誉毀損罪は成立します。
ただし、「名誉毀損罪」の成立には、不特定多数が閲覧できる場所で内容が伴った「情報(事実)」を公開する必要があります。
どういうことか、条文を見ていきましょう。
「名誉毀損罪」は刑法230条では以下のように定められています。
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
「公然と事実を摘示し」「その事実の有無にかかわらず」とは「公共の場所で不特定多数に対して何らかの情報を示す」ということです。
公共の場所は投稿を閲覧できるフォロワーなど不特定多数の方がアクセスできる場所「SNS」ということで条件を満たしていますね。
ただ、何らかの情報を示す必要があり、なりすまし犯の投稿も「詐欺師」「低学歴」と発言してなりすました相手の評判を落とすなど、中身のある投稿である必要があります。
意味のない言葉の羅列では、名誉毀損には問えません。
みなさんの「なりすまし」はどうでしょうか?以下の記事でも名誉毀損について詳しく解説していますので参考にしていただければと思います。
名誉毀損よりも容易に成立する「侮辱罪」
「侮辱罪」は内容が伴った情報を示す必要はありません。そのため「名誉毀損罪」と比べて成立しやすく、不特定多数の前で人格否定やプライドを傷つけられただけで成立します。
例えば、なりすました相手(みなさん)やみなさんの友人・知人(フォロワー)に対する
- 馬鹿
- 死ね
- 消えろ
といった暴言の投稿・公開が該当します。
なりすまし犯が投稿した内容に上記のような発言が含まれていた場合、侮辱罪に問える可能性はあります。
(刑罰としては比較的軽微)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
刑法上では名誉毀損罪(第230条)の次条となっています。
名誉毀損と侮辱の違いについて。混乱する方もいると思いますので、以下の記事を参考にして整理しておきましょう。
勝手に顔写真を転用「肖像権侵害」
「肖像権」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。正確には、他人から無断で自分の容姿の写真を撮られたり、無断で利用されたりしないように肖像の利用を主張できる権利(人権)です。
つまり、勝手にアカウントの顔写真を転用すると肖像権侵害となります。
なりすましアカウントの多くはなりすました相手の顔写真を無断で転用しており、この肖像権侵害に該当しやすいとされています。
刑法のように犯人を拘束することはできませんが、このような権利侵害が発生している場合、民法第709条により、なりすまし犯への損害賠償(慰謝料)の請求が可能となります。
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
権利侵害時の慰謝料請求について詳しくは以下の記事で解説していますのでご参照ください。
アカウント乗っ取り「不正アクセス禁止法違反」
なりすましには「偽アカウント作成」だけでなく、「アカウント乗っ取り」という意味もあります。自分のSNSアカウントが乗っ取られている方はこの「不正アクセス禁止法」を根拠に対処できます。
この法律の「不正アクセス行為」とはいくつか定義があるものの、基本的には他人のID・パスワードを入力して、制御されている利用を可能にする行為(不正ログイン)となります。
不正アクセス禁止法ではこれを「不正アクセス罪」として定めています。
この行為を「なりすまし」と呼ぶ方も存在します。
また、不正にログインしなくても、なりすまし行為を目的としてID・パスワードを不正に取得・提供(第三者へ)・保管・入力要求した場合にも不正アクセス禁止法に違反します。
その場合の刑罰は、1年以下の懲役/50万円以下の罰金となっています。
嘘の交際をほのめかす内容「ストーカー規制法違反」
事例は少ないですが、SNS上でのなりすまし行為の中には、あたかも特定の人物の交際相手(みなさん)になりすますような行為も存在します。
つまり、みなさんの交際相手と交際している人物(みなさん)になりすます行為です。
この場合は、「つきまとい行為(ストーカー行為)」として、ストーカー規制法違反となります。
この法律では「つきまとい」を特定の者に対する
- 恋愛感情、その他の好意の感情
- 上記が満たされなかったことに対するうらみを果たす
という目的で、特定の方(みなさんの交際相手)に対する以下のような行為を禁止しています。
- 監視していることを告知
- 面会・交際・その他義務のないことを行うことの要求
- 著しく荒々しい言動や著しく乱暴な言動
- 拒絶後の連続したSNS等の送信
- 汚物・動物の死体ほかの送付
- 名誉を害する事項の告知
- 性的羞恥心を害する事項の告知、性的羞恥心を害する画像などの送信
みなさんをなりすましたアカウントで上記のような行為を行い、交際相手がそれを拒絶している場合、ストーカー規制法違反となります。
この法律は不正アクセス禁止法と同様に特別刑法となっていますので、罰則(刑罰)が存在します。
ギフトカード購入を要求「詐欺罪」
中にはみなさんになりすまして信用を利用し、SNSでつながりのある友人・知人らに詐欺を行う例もあります。
SNS上での詐欺の形態は様々ですが、近年SNS上では「ギフトカード詐欺」が横行しています。
この「ギフトカード詐欺」とは何らかの正当な理由を付けて相手を欺き、ギフトカードを購入して残高追加用のコードを提供するように依頼する詐欺のことです。
刑法ではこれを「詐欺罪」として裁くことができます。
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
※刑法第246条
業務に影響「信用毀損罪・偽計業務妨害罪」
なりすましアカウントがなりすました相手(みなさん)が企業・芸能人の公式アカウントである場合、「信用毀損罪・偽計業務妨害罪」が成立する可能性があります。
刑法233条では、
- 「信用毀損」:業務上の信用を損なう行為
- 「偽計業務妨害」:(業務に関する)誤情報で人々をだまして業務を邪魔する行為
を禁止し、企業や芸能人などの経済的な信用や健全な社会的活動を保障しています。
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
この法律に違反するなりすまし行為は、例えばSNS上の公式アカウントになりすまし、嘘の情報を流したりする行為であり、偽計業務妨害が成立します。
さらにSNS上でのなりすまし行為によって、取引先との信用や社会的な信用を失えば信用毀損が成立します。
創作物の私物化「著作権侵害」
SNS上では自主的な創作活動をする方が多く存在します。中にはそのような方になりすました上で、創作物を無断で転用して「私が創った作品だ」などと発言する例があるようです。
著作権とはご存じの通り、美術・音楽・文芸・学術など作者の思想や感情が表現された「著作物」を対象とした権利のことです。
著作権ははさらにいくつかの権利に分けることが可能であり、著作物を複製できる「複製権」ネット上にアップロードできる「送信可能化権」著作物の同一性を維持する「翻案権」などがあります。
なりすましアカウントが勝手にみなさんのアカウントにアップロードされた作品をネット上に公開(複製・改変・アップロード)すれば、著作権侵害となります。
著作権侵害は肖像権侵害の場合のように民法709条に基づき、損害賠償が可能です。これに加えて著作権には「著作権法」と呼ばれる特別刑法が存在し、刑罰を与えることも可能です。
SNS上のなりすまし行為が問題となった事例・事件
SNS上でのなりすまし行為が問題となった事例・事件・ ニュースが何例が存在しますので、実際にどのような法律で問題視されているのか見てきましょう。
事例1:知人女性になりすましで「名誉毀損」
2017年10月には、知人女性になりすまし、女性の顔写真や名前を利用して、ネット上で援助交際を募る嘘の投稿を行った男性が「名誉毀損」の容疑で逮捕されています。
知人女性になりすましインターネット上に女性の名誉を傷つける投稿をしたとして、滋賀県警は10日、20代の県立高校教諭の男=東近江市=を名誉毀損(きそん)容疑で逮捕し、発表した。「間違いありません」と容疑を認めている。
引用朝日新聞DIGITAL「「援交募集」知人女性なりすまし投稿容疑 高校教諭逮捕」2017年7月10日
なりすました女性の名誉を傷つける投稿が逮捕に至った例であり、「なりすまし」の逮捕例としては典型的な例と言えます。
事例2:Facebookなりすまし「名誉毀損」で犯人特定
2015年1月には「名誉毀損」でなりすまし犯を法的に特定するに至った例もあります。
フェイスブックで「なりすまし」のアカウントを作られたという西日本在住の女性が、「なりすました人」の特定に成功したことがわかった。女性は、なりすましによって名誉を傷つけられたとして、インターネットのプロバイダに「発信者情報」の開示を請求していたが、それが受け入れられたのだ。女性の代理人をつとめる清水陽平弁護士が1月9日、弁護士ドットコムの取材に対して明らかにした。
引用弁護士ドットコムニュース「フェイスブック「なりすまし」で発信者の住所・氏名の特定に成功 「日本初」と弁護士」2015年01月09日
このようにネット上で「名誉毀損(名誉権侵害)」が発生した際は、プロバイダ責任制限法に基づき、犯人の特定が可能になります。
プロバイダ責任制限法に基づく犯人の特定について、詳しくは以下の記事で解説していきます。
事例3:Twitter乗っ取り「不正アクセス禁止法違反」で犯人逮捕
こちらは偽アカウント作成ではなく、「乗っ取り」で不正アクセス禁止法で逮捕された例です。
同級生の男子生徒のツイッターアカウントを乗っ取り、本人になりすまして、女子高生らに300回以上メッセージを送ったとして、兵庫県警は1月30日、同県の高校3年の男子生徒(18)を不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕した。
引用弁護士ドットコムニュース「女子に人気の男子生徒の「ツイッター乗っ取り」で逮捕…「なりすまし」の法的問題」2017年02月06日
このように不正アクセス禁止法も逮捕例のある法律であることが分かります。
まとめ:なりすましは違法行為のカタマリ
なりすまし行為は現状では自体は法律で問題視されていません。
ただし、なりすましに付随して、結果的に様々な違法行為を併発している可能性は十分に考えられます。
今回紹介したのは、
- 名誉棄損罪
- 侮辱罪
- 肖像権侵害
- 不正アクセス禁止法違反
- ストーカー規制法違反
- 詐欺罪
- 信用毀損・偽計業務妨害罪
- 著作権侵害
の8つですが、状況に応じては他の法律にも違反している可能性もあります。
専門家に相談して、みなさんのケースがどのような法律に違反しており、なりすまし犯がどのような罪を犯しているのか見極めていくことも大切です。
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